はじめに
発達障害傾向の人はフリーランスの方が働きやすい?
――私は正式に発達障害の診断を受けたことこそないものの、正社員として働いた時には、まったく会社に適応できず、上司からパワハラを受けるようになって、仕事を続けられなくなってしまったんです。しかし、フリージャーナリストとして働いているいまは、自分のペースで仕事ができるので、無理なく続けられています。発達障害傾向のある人は、勤務時間などをきっちり管理されるよりも、フリーランスのような働き方が向いているのでは?
それは面白い指摘ですね。経済学で内部労働市場という言葉があるのですが、会社ってひとつひとつの仕事で完結していなくて、総体で給料が発生するでしょう。
発達障害とか精神障害の方だと、ひとつ仕事が終わるごとに完結して対価が発生し、チャラになってまた次の仕事をする、というほうが働きやすいかもしれませんね。
――障害者雇用では、よく毎日9時から17時まで出勤できる、というのが採用の条件になるのですが、次第に勤怠が安定しなくなって退職してしまう人が非常に多いです。精神障害とか発達障害の人って、生活リズムが安定しなかったり、易疲労性といって疲れやすかったりするのですが、調子のいい時なら高いパフォーマンスを発揮するという人もたくさんいます。出勤時間をきっちり定めないで、ある程度自由にしたほうが、無理なく仕事を続けられるのではないでしょうか?
ほんとにそうですよね。フリーランスで原稿を書いているような人だったら、それこそ深夜に仕事してもいいし、朝早く目が覚めたら早朝からやってもいいし、調子のいいときに仕事ができるじゃないですか。
だけど会社に雇われるとそうはいかない。特に障害者雇用だと、週30時間以上がデフォルトで、週20時間以上30時間未満は0.5人と数えるといった決まりがあるので、労働時間を管理せざるを得ない。そうすると、会社側が管理できる時間に働かないといけないから、深夜に働くとか、家に仕事を持ち帰るというわけにはいかないですよね。
私はそれは実に不適切な規制だと思っているんです。精神障害の方はむしろ雇用契約だけして、勤務形態は自由でいいという形にして、労働時間で管理しないほうがいいと思うんですよ。
労働時間よりも仕事の成果で評価すべき
――障害者雇用では通常週30時間以上、0.5人として換算される短時間雇用でも週20時間以上30時間未満働かなければならないことになっていますが、それより短い時間で済む仕事なんだけど、誰かにやってほしい仕事があったら、週にちょっとだけなら働けるという人とマッチングしたらいいのではないかと思うんです。発達障害の中には、過集中といって、調子のいいときならハイスピードで仕事をできる人もいますし。
そうですね。いまの制度だと労働時間は定められていますけど、ほかの人だったら20時間かかる仕事を15時間でできてしまう人でも、それだと規定の時間に満たないということになってしまうのかと。
それはおかしいから、労働時間ではなく、仕事の成果というアウトプットで評価しないと。そのへんの働き方改革というか、規制緩和は必要だと思いますね。
――企業の障害者雇用の採用の仕方も、その人の特性を見るというよりは、まず週5日、1日8時間来れる人を求めるということになっていて、本当にハンデのある人にまで障害者雇用が届いているのだろうか、という気もします。
多くの場合、会社が本体から雑用的な仕事を切り出して、それを障害者仕事だと定めて、それに合う人を探して来るっていう発想だから、本来の障害者雇用の目的を果たしてないですよね。
その人の能力とか潜在力を見て、それを活かすにはどういう働き方を提示すればいいか、というようにあるべきなのに、そうはなっていない。企業が言う優秀な障害者というのは、企業が用意した仕事を黙々と文句も言わず何時間もやってくれる人、というふうになってしまっていますね。
本当の意味での適材適所になっていないし、型にはまったことができる人しか雇用が進まないというふうになってしまいます。
――いまの形では企業にとっても障害者雇用が負担になってしまっている。
そうですね。ただ障害者のほうもうまく障害受容ができていなかったり、何か問題が起きると全部会社側のせいにするとか、いろいろな問題もあるんです。障害者の側も自分の困難さとか問題性を理解するということをやっていかないと、企業の側もそこまで面倒は見切れないということになってしまいますよね。
だからいまは企業が障害者を雇用する際に、障害者をサポートする担当として、就労支援のNPO法人などがついて、企業と障害者の間の調整役になってもらっているところが多くなっています。
どういうところで調子が落ちるのかとか、どういうときにどういう気分になるのかを自己分析して、企業にもその人の特性を知ってもらう。そういうことは就労支援機関のほうが得意ですから。
企業だけに障害者雇用をやらせようと思ってもうまくいかないので、就労支援機関や事業所の存在が、ますます重要になってくるでしょうね。