はじめに

地方出向を言い渡されて

2018年に始まった新専門医制度は、同時に「地方や外科の医師不足を是正する」という目的で、「都市部(特に東京)の眼科・皮膚科」の専攻医数を厳しく制限するようになりました。定員枠の多いD医大皮膚科も、削減と他県への移動を厚労省から強く要請されました。

一次締め切りの3日前、D医大皮膚科の教授から亜由美先生に「1年目はG県の関連病院に出向させる」旨のメールが届きました。「住み慣れたG県だから」と電話で説明されたのですが、「先輩女医が妊娠したので代わりに派遣したい」というのが本音のようでした。「子育て支援」病院とは、「独身者が子持ち同僚を無償支援する」病院でもある、と思い知らされた亜由美先生でした。

国家試験予備校講師+フリーター医師への道

亜由美先生は、初期研修のあいまに国家試験予備校講師のアルバイトも行っていました。予備校長に事情を説明すると、「じゃあ、ウチの専任講師になればいい。週3回働いて、あとは好きにバイトでも婚活でもすればいいよ」とオファーされ、受諾しました。予備校の給料は高くはありませんが、勤務時間が決まっているのが魅力です。オフシーズンには長期休暇が取れるので、長期の海外旅行も可能となり、それを励みにバイトや貯金を頑張るようになりました。

「皮膚科に興味があるなら」と予備校長はF美容外科を紹介してくれたので、ケミカルピーリングやレーザー脱毛を担当しています。最近はヴァンクリのみならずブルガリのアクセサリー収集にもハマっているので、血液クレンジングやアンチエイジング点滴のクリニックでもバイトを始めました。

地方や外科に人は集まるか?

かつて、英国のサッチャー首相は「金持ちを貧乏にしても、貧乏人は金持ちにならない」と述べました。同様に、「東京の皮膚科を強制的に減らしても、地方や外科の魅力が高まらない限り人は廻らない」のです。都内の希望専攻科に進めなかった若手医師の多くは地方や多忙科には廻らず、フリーター医師として都内に残留するケースが増えています。

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