はじめに

広がる販売手数料無料化の波

――2019年はネット証券が投資信託の販売手数料を無料化する動きがありました。

投資信託に限らず、信用取引の株式売買手数料や米国株の最低売買手数料など、ネット証券を中心に各種手数料を無料化する動きが加速した1年でした。投資信託でも、ネット証券を中心に投資信託やETF(上場投資信託)の販売手数料を無料化する動きが広がりました。この動きはネット銀行にも波及しており、ネット金融機関ではノーロード(販売手数料が無料)という概念そのものが、なくなろうとしています。

無料化の動きはあくまでも「非対面型」のネットチャネル中心です。対面でのアドバイスをしないネットでは販売手数料を取らない一方で、投資家の相談に応じる場合は有料、というシンプルな構図ができつつあるわけです。

投資家の間でも、アドバイスが欲しい人は対面型金融機関やアドバイザーを選び、不要な人はネット証券、という使い分けが進むと考えられます。対面型の金融機関は、手数料分だけの付加価値を求められることにはなりますが、差別化はしやすくなると思います。

「投資の出口戦略」に注目が集まる1年に

――楽天証券は年末に投資信託の定期売却サービスを発表したことが話題となりました。

当社をはじめ大手ネット証券の多くが2000年前後にビジネスを始めており、創業当時からのお客様は20年以上投資を続けています。その中にはリタイアを迎えている世代もいらっしゃるため、形成した資産をどのように活用していくかという「出口戦略」が求められるようになってきました。

保有する投資信託を“生活費”として取り崩したいという需要に対するサービスとしては、定額の定期売却サービスが存在していました。あらかじめ決めた額だけ毎月自動で解約して、現金化してくれるサービスです。

当社では、この「定額指定」に加え、「定率指定」と「期間指定」という選択肢を新たに設けました。

「定率指定」は保有する投資信託を、金額ではなく全体に対する「割合」を決めて取り崩すサービスです。資産の増減で受け取る金額は変わるので、受け取る額が一定しないというデメリットはありますが、相場低迷時には取り崩す額も減らせるので、資産を長持ちさせる効果があるとされています。

また、「期間指定」は一定期間を指定して、投資信託を等分して現金化するサービスです。1年であれば、その投資信託を12等分して毎月受け取ります。複数保有する商品を順番に解約していきたいといったニーズに対応しています。

――確かに、資産形成を始めるための情報やツールは年々充実してきましたが、その資産を使う際の方法論はあまり議論されてこなかった気がします。

投資の出口戦略は、金融機関にとっては収益源である預かり残高の減少を促しかねないサービスなので、積極的な取り組みが難しかった領域です。

これまでは毎月分配型の投資信託が取り崩しのニーズに応えてきましたが、世界的な低金利や、タコ足配当(利益ではなく、元本から分配すること)への風当たりが強くなっている今は、それも難しくなっています。対面型の金融機関であれば、担当者が「御用聞き」をして換金することも可能でしょうが、ネット証券にはこうした対応もできません。

その一方で、「人生100年時代」といわれるほど寿命は延びており、投資家も高齢化していきます。何十年と続くリタイア後の人生では、運用をやめるのではなく、なるべく長く続けながら必要な額を計画的に使っていくサービスの必要性が増しています。

金融機関にとっては、リタイア世代はもちろん、将来の安心を求める現役世代のニーズに応えるためにも、避けては通れない分野になってきているのです。

これまでは、高齢者が多額の金融資産を持ったまま亡くなるケースが多く、資産は使うよりも相続に回っていましたが、今後は投資家も金融機関も、形成した資産を使うことへの関心が高まっていくとみています。

2020年はこうした「投資の出口」に対応するサービスが、充実していく年になると思います。 

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