「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。デジタル技術を活用して、事業を立ち上げたり、事業を変革することを指しています。

ただ、多くの日本企業は既存業務の生産性向上を目的に取り組んでいるように思われます。たとえば、官民を挙げて取り組んでいる「働き方改革」において、さまざまなクラウド技術を活用して、残業時間を削減することなどが、これに当たります。

しかし、CDO Club Japan事務局でマネージャーを務めるSansanの柿崎充・デジタル戦略統括室長は、「DXの本質は、働き方改革とは別のところにある」と指摘します。CDO Club Japanは、日本の企業や行政組織においてDXを推進する立場にある役職者などが情報交換を行うためのコミュニティです。

今回は、2020年1月16日に開催されたイベント「Biz Forward 2020」内での柿崎氏による「デジタル時代の価値創造」の講演内容から抜粋して、日本が取り組むべきDXの本質をご紹介します。


2種類存在する「生産性」

最近、「生産性向上」という言葉をよく耳にします。この生産性は大きく分けて2つあります。1つは、働き方改革で注目されている「労働生産性」です。もう1つが「資本生産性」です。日本ではしばしば労働生産性が重視されますが、実は資本生産性のほうが重要なのです。この生産性を高めるための取り組みを、ガバナンス改革といいます。

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事業そのものが赤字である場合や、最近は会社の不祥事が発生する事例もあります。そういう事業状態で労働生産性を上げても、まったく意味がありません。資本生産性のほうが重要なのです。

働き方改革がうまくいったという話がありますが、実は、先にガバナンス改革がうまくいったから、働き方改革もうまくいくのです。これらの生産性を大きく包含するものが DXです。

作成期間4ヵ月で7兆円のサービス

たとえば、配車アプリを展開するウーバーは、働き方が変わったと言われています。同社の上場時の時価総額は約7兆円です。

同社のアプリを利用すれば、ニューヨークへ行って、日本語で「自由の女神」と入力するだけで、ウーバーのタクシーが連れて行ってくれます。このサービスを立ち上げるのに、かかった期間は4ヵ月、コストは3万8,000ドルという調査結果があります。これほどの短期間・低コストで時価総額7兆円のサービスがつくれる時代なのです。

これはなぜか、不思議に思いますよね。わかりやすい例が、アメリカのソーシャル投資サイト、Instavestです。この会社には50人の従業員しかおらず、IT部門には3人しかいません。他はコンプライアンスの方が多いです。日本とは全然違います。

自社でサーバーを立てたり、いろんなソフトウェアを開発すると、1,000人以上の従業員が必要になるでしょうが、いろいろなクラウドサービスをAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)でつなぐことにより、少人数で行うことが可能です。

ウーバーも、自前で全てのシステムをつくるのではなく、例えばグーグルの地図などを使うことによって、低コスト・短期間でサービスを提供できています。

デジタル変革には、「業務プロセスのデジタル化」と「製品・サービスのデジタル化」の2種類があります。

例えば、シオノギ製薬では、研究開発のプロセスをコンサルティング会社と組んでデジタル化しています。これは業務プロセスのデジタル化です。もう1つは、子どものADHD(注意欠陥・多動性障害)を、薬で治すのではなく、スマートフォンのゲームによって発見・予防を目的としたアプリを開発しています。これが製品のデジタル化です。

サービスのデジタル化と業務プロセスのデジタル化を分けて考えていただくと、日本企業の取り組みのほとんどが業務プロセスのデジタル化です。サービスのデジタル化は忘れがちなため、こちらの部分に注力していただく必要があると思います。

プラットフォームの本質

デジタル変革とは、実は生産性向上ではありません。プラットフォーム革命です。製品の品質だけにこだわるのではなく、戦略を考えていただければと思います。

アメリカでは、2~3年前からプラットフォーム革命の本がいろいろ出ています。日本語に翻訳されたものを私が読んでまとめると、「プラットフォームとは、生産者と消費者のマッチングだ」と言っています。

ウーバーが車を持っていなかったり、フェイスブックやYouTubeはコンテンツを持っていなかったり、Airbnbは不動産を持っていません。マッチングアプリなのです。

ただ、アマゾンは「Amazon Go」というコンビニを始めました。また日本には大型の倉庫を持っています。最近では、自分たちでトラックを持つと言い始めています。

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プラットフォームは、実はデジタルの前からあります。注目すべきは、異なる市場・業界を攻めること。これがプラットフォームの本質です。マッチングだけではないのです。

たとえば、グーグルは検索サービスをボランティアでやっているわけではありません。広告で儲けています。モバイルOSのAndroidも、ボランティアではありません。これも広告で儲けています。単純に言うと、複数のいろいろな市場を攻略するのがプラットフォームの基本なのです。

アナログ企業がデジタル企業に対抗することがDXではなく、業界では今、これが二分されています。プラットフォームの業界とプロダクトの業界、この2つがあることになります。