はじめに
影響は製造業にも波及するか
百貨店をはじめとする消費関連企業の業績悪化もさることながら、製造業への影響も免れないでしょう。海外では米アップルが2020年1~3月期の売上高を下方修正するなど、各国で実体経済への影響が出てきています。
日本では、5月に発表が集中する3月期決算企業の通期決算への悪影響は避けられない事態となっています。新型コロナウイルスの震源地となった中国・武漢は、半導体メモリや自動車の工場が集中している地域であり、関連企業の打撃が予想されます。
特に自動車業界では、トヨタ自動車やホンダなどは新型コロナウイルスの影響を織り込まない業績予想となっています。工場の閉鎖延長などが起きている中で、業績へのマイナスインパクトの懸念があります。
また、ハイテク関連企業の中には東京エレクトロン、TDKなど、2019年夏頃から相場を牽引してきた銘柄も多くあります。こうした銘柄の株価が反落することで、相場への影響が注目されます。
GDPの下落は一時的なもの?
それでなくても、日本の景気は、新型コロナウイルスの影響のなかった昨年末の時点で、消費増税などの影響によって、すでに分岐点を迎えていました。
2月17日に発表された2019年10月~12月期のGDP(国内総生産)速報値は、年換算で実質6.3%減少。前回の消費増税が行われた2014年以来、5年ぶりの低水準となりました。政府はこの結果を受けたうえでも、緩やかな景気回復基調には変わりがないとしています。
しかし、個人の消費の観点で見てみると、民間最終消費支出では前回が実質0.4%増であったのが、今回は実質2.9%減。輸入では前回が実質0.2%増であったのが、今回は実質2.6%減と減速が目立ちます。
日本のGDPは個人消費が約6割を占めています。厚生労働省から不要不急の外出を控えるよう呼びかけが行われる現在の状況を踏まえると、決して先行きを楽観視できる状況ではないでしょう。
SARS時の相場展開は参考にならない
過去のウイルス流行例ではSARSが挙げられます。2002年11月に発症が確認された際は8,000円台後半だった日経平均は、2003年3月に7,000円台まで落ち込みました。しかし、終息宣言がされた2003年7月以降は1万円台に回復しています。
当時と現在では中国の経済規模が異なりますが、今回も終息が見えるまでは不安定な動きが続くとみられます。一方で、終息が見えてくれば、急速に相場が上値を狙っていく可能性も考えられます。
懸念としては、今夏に開催を控えている東京オリンピックに関して、ロンドンへの開催地変更の報道が出るなど、開催が危ぶまれる点です。最悪の想定ではありますが、東京オリンピックが中止になった場合、日本の経済影響は計り知れません。中止までいかなくても、本来想定されていた数の観客が訪れない展開は十分に予想されます。
東京オリンピックの動向や消費者マインドの低下など、懸念事項は山積しています。新型コロナウイルスの悪影響が長引くことも考慮しながら、3月以降の相場と向き合っていく必要があるでしょう。
<文:Finatextグループ アナリスト 菅原良介>