はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。
来年、新社会人になる大学4年生です。ニュースでよく見る公的年金制度に関する報道に不安を覚え、若いうちから老後を見据えた資産形成を行う必要があるのではないかと考えるようになりました。
しかし、いざ自分の雀の涙のような初任給を想像すると、とても資産運用どころではなく、日々の家計のやりくりで手一杯な気がします。ストック・フローともにお金に乏しい20代でも、資産形成について真剣に考えたほうがよいのでしょうか? また資産運用を行う場合、どのような点に注意すれば無理なく運用を行うことができますか。
(20代前半 独身 男性)
野瀬:「20代でも資産形成を考えたほうがよいか?」というご質問。
答えはイエスです。
仰る通り、公的年金にはまったく期待できません。これからの時代、年金はおまけで、それ以外に自分自身で老後資金を形成しておく必要があるでしょう。
では、「年金は払わなくてもいいのか?」というとそうではありません。政治家や官僚の方々のメンツを考えると、年金制度自体は今後もキチンと維持しなければいけないため、「払わない人は損」という体制は続くと思います。維持する方法は簡単で、税金から年金財政への支出をどんどん増やせばよいのです。
制度が継続する以上、年金はわずかながらも「払ったほうが得」という体制になると思います。
話が横道に逸れましたが、それでも年金の受取金額が少なくなることは予想されるので、なるべく若いうち、できれば20代からの資産形成が必要でしょう。しかしまた給料が少ないのも、20代です。悩ましいところですね。
お金の使い方で反省していること
昔の私は、あまりお金のことを考えていなかったので、20代のころのお金の使い方には反省しきりです。とくに私が反省していることをいくつかご紹介します。
家賃
若いうちは遅くまで働いたり飲み歩いたりするので、家にいる時間はほとんどありませんでした。一人暮らしの家は極力、「狭い・古い・安い」代わりに職場と「近い」物件を選ぶとよいと思います。ここにお金を使う意味はあまりないです。
保険
保険が不要だとは思いませんが、保険の知識がないうちに営業の方が言うまま入った保険については、ものすごく後悔しています。新社会人になると必ずやって来るのが保険の勧誘ですが、売る側は我々が無知な期間を狙っているともいえます。その場ではとりあえず断って、しっかり勉強してから加入するほうがよいでしょう。
この家賃と保険は毎月発生するコスト、いわゆる「固定費」なので節約効果は絶大です。使い方を意識すると、まとまったお金が貯まるようになるでしょう。
ただお金が貯まるとつい使ってしまうのも20代です。普通預金にしたままにせず、毎月決まった金額を定期積金にするか、投資を考えているのであれば証券口座に移してしまってもよいでしょう。
20代におすすめのお金の使い道
さて、今度は実際の資産形成。「なににお金を使うべきか」ですが、20代のお給料などはたかが知れているので、「ガツンと投資で勝負にでる」というよりは、30代からの資産形成や仕事の転機に備えてお金を貯め、投資や経済の仕組みの勉強のために費やすことをおすすめします。また、よい人間関係が構築されるのもこの時期です。
ここからは貯めたお金の使い道として具体例を挙げていきます。
貯金
家賃や保険の見直しで貯まったお金を少しずつ貯めておき、30代の転機に使うとよいでしょう。「何かしよう!」と思った時に一番必要なのは結局「お金」です。イザという時に資金援助してくれる親がいる人はいいですが、そうでなければ転職・資格取得・留学・独立、いずれにしても貯金は自分の強い味方になります。
投資
将来の資産形成に備えて「少額から」投資を勉強・実践するとよいでしょう。あくまでも少額からです。その意味では投資金額に制限があるNISAなどはよいかもしれません。
仕事
一番ツブシが効くのは語学だと思いますが、それ以外にもキャリアを積むための勉強をするとよいと思います。
ただ注意してほしいのは、この手の勉強の効果は値段と比例しません。漠然と勉強すると、まったく身につかず払ったお金がムダになります。「何を」「何のために」ということを、よく考えてから自己研鑽するとよいでしょう。
人脈
どんなことにも一生懸命取り組めるのが20代のいいところなのですが、一生懸命に働いている時には「よい人間関係」が築かれやすいものです。会社の同じメンツとダラダラ飲みに行くことも悪いとは思いませんが、仕事で出会った人などと積極的に飲みに行くとよいでしょう。
「仕事をがんばってください」
ここまでつらつらと私の意見を書きましたが、本音を言うと、これらは結局「仕事をがんばってください」の一言に集約されます。
家族や社内政治などの雑念なく思いっきり仕事ができるのが20代です。その時期にしっかり仕事をしておくと、多くのメリットがあります。
・自然に帰りが遅くなり、家賃が高い家が必要なくなる
・お金を使う暇もないので貯金が貯まる
・仕事の勉強も仕事のなかで自然に身につく
・よい仕事をするとよい人が集まって、自然に人脈ができる
そうすると、最後に給料も上がるでしょう。このようなことを念頭に置きつつ、仕事をがんばるといいと思います。
最後にもう1点補足を。たとえ20代であっても「本当に好きなもの」にはお金を使ってください。「本当に好き」、かつ「あとになって取り返しがつかないもの」は若いうちでも買うべきです。
たとえば海外旅行であれば、お金に余裕ができてから行けばよいのですが、大好きなアーティストのコンサートなどは同じものが二度とないので、私も行かなかったことを激しく後悔しています。
歳をとってからはできない経験ができるのもまた20代なのです。
節約と蓄財の第一歩は「好きでもないのに払っているお金」と「自分が本当に好きでお金を払いたいもの」を洗い出すことです。「自分が本当に好きなもの、興味あるものは何か?」ということを自問自答してみてもよいでしょう。