はじめに

積立投資は徐々に“短期投資的”になる

株式の平均期待収益率から考えれば、単年ではマイナスとなっても、数十年間で得られるリターンを平均化すれば、1年当たり4.5%程度は儲かっていることになります。そうすると、期待値としては株価が下落する局面でも投資するメリットがあるのではないか、と考えられるかもしれません。

しかし、この考え方は将来も積み立てを継続するという前提でのみ有効な試算です。景気には数年単位の波があります。株価下落局面でも積み立てを継続すると、そこで発生した損失や評価益の縮小を取り返すまでに想定以上の時間がかかり、残存期間を大きく超過する可能性があります。

積立投資を行う期間が有限であれば、この「残存期間」という概念を頭に入れておかなければなりません。たとえば、20年間つみたて投資する計画における19年・12月目の投資分は1ヵ月にも満たない投資期間となります。終盤における積立投資分は、ノイズレベルの動きでも簡単にマイナスになり、積み立てのメリットが十分に発揮されないまま終了する可能性が高くなるのです。

このように、積立投資は残存期間が短くなれば短くなるほど、短期投資的になることに注意しなければなりません。

下がった時に売らざるを得ないことも

また、景気後退期に積立投資を継続するデメリットも見逃せません。それは、「将来のキャッシュフローを予見することが難しくなり、積み立てが難しくなる可能性がある」という点です。

具体的には、「下がった時がチャンスだと思っても、不景気による収入減が家計に響き、貯金や資産を切り崩さざるを得なくなる」といった状況があります。よく「株価が下がった時に投資をやめるのは愚かだ」という論調が目立ちますが、現実問題として切り崩せる資産がなければ、それをわかっていても投資をやめざるを得ないのです。

積立投資は、すでに積み立て終わったポジションに関してはリスクをコントロールすることはできません。そこで、「いくら知識がなくても大丈夫」という売り文句がはびこっているとしても、いつやめるかという点と、残存期間の終盤に景気動向が悪くならないかという点については、最低限アンテナを張っておいたほうがよいでしょう。

今回のように景気後退局面入りの兆候が現れた段階で、すでに相当の資産を積み立てている方は、少なくとも積み立てる金額を抑えたり、一部を現金に退避させたりするなどして、様子見にシフトするほうが安全かもしれません。

また、これから積み立てを始めようとしている方や、始めて間もない方も、いったん底打ちを確認してから積み立てを行うほうが堅実といえるでしょう。

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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