はじめに

「学歴」と「結婚」という階層流動化装置

――それでも、格差は大きくなりおだんごができた。

膨大な資産をもつスーパーリッチがいなくなったかわりに、中堅企業の経営陣や小地主、これに加えて安定的な雇用・所得をもつアッパーミドルが、程度こそ大したことないですが、ある程度人数の多い上流層になっていったわけです。

この階層は、資産格差に比べて、本来ならばある程度流動的です。経営に成功しなければ稼げる経営者にはなれませんし、高い学歴を得なければ高給取りにはなれません。しかし、この階層流動化の機能が近年弱くなっているのではないでしょうか。

教育費をいくらかけたかは結果としての学歴に大きく影響します。また、金銭以外の資本――芸術・文化的体験や書籍や学習への興味を引き立てる家庭内の慣習といった文化資本もある程度豊かな家庭ほど豊富です。最大の階層流動化装置だった学歴のシャッフル機能が弱りつつあるわけです。

――親の年収と子どもの学歴が無関係ではなくなっていますもんね。

余談ながら、政府や教育業界はペーパーテスト以外の「多様な選抜方法」を拡大しようとしています。しかし、この「多様な選抜方法」というのはくせ者です。

上流層では、子供のころから習いごとや海外旅行、留学など、さまざまな経験を親から享受している。面接やプレゼン、体験をベースとしたスピーチで合否が決まるようになったら……決定的に豊かな家庭が有利になるでしょう。だってノンエリート層の家庭ではそんな体験する資金も機会も人脈も乏しいですから。

批判もあるでしょうが、純粋に学力のみが判断基準だというのが日本型学歴社会のいいところなんです。もちろん学力だって塾や家庭教師といった方法で金銭的に向上させることはできる。しかし、金銭や家庭の重要度は「体験や感性についての総合力」よりはかなり低い。どんな家の生まれでも、ガリ勉すればそれなりのとこまでは到達できることの重要性は大きいでしょう。

――学歴社会もそういう見方をすると、感じ方が変わりますね。

「多様な選抜方法」というと聞こえはいいですが、上流層が自身の子女に有利な選抜方法を拡大しようとしているのではないかと勘ぐってしまいます。AO入試や推薦といった多様な入学ルートは学生の多様性を高める効果があるのは確かですが、あくまでスパイスであってメインであるべきではないというのが私の見解です。

社会の流動化に話を戻しますと、もう一つの重要な階層移動機会は「結婚」です。

――結婚の階層移動はイメージしやすいです。

かつて、女性はよほど優秀でなければ、一般職で数年で結婚という方が多かったわけです。しかし、もはやそういう時代ではありません。

女性の働き方が変わったことで、男女の出会いにも変化が生じます。職場でも交友関係でも「似たような学歴・職業・収入」の人同士としか出会わない。そして、お見合い結婚というルートが極端まで細くなった結果、「出会わない人とは結婚のしようがない」状態です。

その結果、結婚する男女の学歴・階層差が縮まっている。結婚が階層流動化のひとつのルートになっていたのは「お見合い時代」と最近の「同格婚時代」はざまに一時的なものだったのかもしれません。経済成長が格差縮小につながったクズネッツの逆U字仮説と同様に。

上のおだんごの男女が結婚し、その子供たちがまた似たような階層間で結婚をしていく。これが続くと、上下のおだんご間の分断はどんどん深くなっていくでしょう。そして、下のおだんご内では、そもそも経済的に不安定で結婚できない、子供を作れないという層が増えている点も見逃せません。

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