はじめに

日本型格差解消は「広く、浅く」

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明治大学准教授でエコノミストの飯田泰之氏

――うーん。格差の解決策はやっぱりピケティが『21世紀の資本』で示したような金持ちへの課税なんでしょうか。

そうですね。日本の場合、上のおだんごである、中高所得者層・プチ資産家層に対する広く薄い課税が必要だと考えています。もともとがたいした金持ちではないので極端な税率の上昇は難しいでしょう。一方で、人数はたくさんいるという利点がある。だから広く薄く、ですね。

税金は、ざっくりいうと所得課税と消費課税と資産課税に分類されます。かつての日本は所得課税――個人所得税と法人所得税が中心でした。ちなみにこれも戦後改革の一環です。「シャウプ勧告」というやつですね。しかし、所得課税には税収が安定しないという問題点がある。そこで議論がはじまったのが消費課税、つまりは現在の消費税の導入です。

――はい。

消費税そのものの問題点はさておき、昨秋に消費税が10%になったことで、所得課税と消費課税のバランス、いわゆる直間比率の是正は達成されたと考えるのが一般的でしょう。これ以上の消費増税には税構造の安定化という理屈では正当化できません。ここから税制改革を考えるならば、もうひとつの課税ベースである資産に課税していくべきだと思います。

日本はなぜか土地は本貫の地というか、先祖代々は受け継ぐべきものみたいな不思議な感覚が強いですよね。金融資産への課税には抵抗はないのに、土地に対しての課税は忌避されがちです。しかし、現代では、土地も様々な資産のワンオブゼムでしかないことも忘れてはなりません。

――資産課税は相続税と固定資産税がありますよね?

僕はずっと相続税がいいと言っているのですが、それは現在の日本の状況では徴税しやすいからというだけです。よく、「相続税をなくしている国がある」といった意見がありますが、単に徴税方法を変えているだけというケースも多いです。日本でいうところの固定資産税を高める代わりに相続税を縮小するわけです。ようは、死んだ時にとるか、毎年とるかの違いにすぎません。徴税効率の良いほうを選べばよいので、何も絶対に相続税であるべきだとまでは、僕は、思いません。

ただし、さきほど言ったように、持っている人は、それまでずっと親からさまざまな恩恵を受けてきたわけです。ここは経済理論からは離れますが、さまざまな恩恵を与えてくれた親が亡くなったなら、そこで少しくらい再分配してもいいんじゃなの?と思うんです。1,000万円の土地が600万円で手に入るわけで、得をしたことに変わりはないわけですから。

また、亡くなった方についても子孫に資産を残せるくらいの人生を送れたことの少なからぬ部分が日本国・日本社会のおかげでしょうから、何割かを納付しても罰は当たらないんじゃないかと。

――個人的にはそう思います。

一方で、地方再生という視点から考えると、固定資産税にも利点があります。固定資産税は地方税収です。固定資産税が上がれば税収があがる。税収が地価で決まるとなれば、まちづくりに一生懸命になると思うんですよね。実際、イギリスでタウンマネージャーを中心としたまちづくりが盛んなのは、自治体税収の多くが固定資産税だからです。町が廃れて地価が下がると、自分たちの首が閉まる。だから、ものすごく一生懸命になる。

今の日本では、地方交付税交付金がいちばんの税収なので、下手に産業ができるとむしろ困ってしまう。ある県で、次世代エネルギー施設の誘致の話に「産業ができて交付金が減ったらどうする!」と議員が猛反対するという本末転倒なことが実際にあったりするわけで。

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