はじめに

これからの日本経済

――悪いジョークみたいです……。このまま手をこまねいていると、どんどん格差は広がって、ピラミッド型になっちゃうんですよね?

格差が広がっているもう一つの理由は、ある意味、日本が貧しくなったからでしょう。1980年~1990年代は、海外で活躍しても日本で活躍しても給与水準は変わりませんでした。しかし、同じ仕事をするならば、海外で活躍をしたほうがいい。いわゆるグローバル人材は勝手に高所得者になっていくし、プチ資産家は海外への投資で一定の利回りが得られる。その一方では……っていうことですよね。

――日本が貧しくなったのは、何が原因でしょう?

それはもう経済政策の失敗でしょう。失われた20年、または30年と言いますが、この国は20年間以上、経済成長していないわけです。ピケティの「r>g」でいえば、gがゼロですと、rとの差は大きくなる一方です。

実際、金融緩和政策がスタートした2012年末から2018年半ばまでは景気はよかったですよ。「好景気の実感はない」という人も少なくありませんでしたが、学生の就職はよかったですし、中小企業の経営者や地主層の表情は軒並み、明るかった。

多くの人にとって、政治への第一の関心は経済・景気です。経済政策がうまくいっていれば、政権の支持率は高まりますし、逆は逆というわけです。

――日本経済、これからどうなりますか?

消費増税がかなりのダメージになっているところに、コロナウイルスですからね。現段階ではいつ終息するのか、そもそも、何をもって終息と言えるのかすらわからない状態で、「わからない」というのが正直なところです。

このような状況では、大胆な、そしてやり過ぎだと思われる規模の経済対策が必要です。消費増税や増税以前から始まっていた景気の縮小傾向に対応するためだけだとしても、昨年末に政府が策定した経済対策は不十分です。財政支出13.2兆円規模というとかなり大きいように感じますが、既存の公共事業の縮小・延期などによって財源を確保している部分が大きく――純粋に国債で調達した財政支出が5兆円プラスアルファ積み増されるべきだと思います。

――コロナも大きなダメージになりそうです。
コロナについては、ごくラフに試算すると、この騒動が続く間は月に5~6兆円の需要低下が発生することになる。ですから、4月上旬までに落ち着いたとしても必要な経済対策規模は10兆円以上必要でしょう。

これらの大規模な財政出動を支え、さらに国際的な不安の中で進む円高に対応するために金融政策も十分な資金供給によって金利の上昇を抑え、さらに政府保証融資の拡大とあわせて、現下の危機が信用危機にいたることのないように進められなければなりません。

現下の経済政策は、ピラミッド型の格差社会に陥らないための最後のタイミングを迎えつつあると同時に、弱者にこそもっとも大きな負担を与えることになる大不況を避けるためにあらゆる政策手段に躊躇しない局面にあるといえるのではないでしょうか。

21世紀の資本(原題:Capital in the Twenty-First Century)
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公開表記  :3月20日(金)より新宿シネマカリテ他全国順次公開
配給 :アンプラグド
©2019 GFC (CAPITAL) Limited & Upside SAS. All rights reserved
監督:ジャスティン・ペンバートン 監修:トマ・ピケティ 製作:マシュー・メトカルフ
編集:サンディ・ボンパー 撮影:ダリル・ワード 音楽:ジャン=ブノワ・ダンケル
原作:トマ・ピケティ「21世紀の資本」(みすず書房)
出演:トマ・ピケティ ジョセフ・E・スティグリッツ 他 提供:竹書房 配給:アンプラグド 日本語字幕:山形浩生
2019年/フランス=ニュージーランド/英語・フランス語/ 103分/カラー/シネスコ/5.1ch
https://21shihonn.com/

飯田泰之
1975年、東京生まれ。明治大学政治経済学部准教授。専門は経済政策、マクロ経済学。著書に『日本史に学ぶマネーの論理』(PHP研究所)、『新版 ダメな議論』 (ちくま文庫)、『経済学講義』 (ちくま新書)など。

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