はじめに

3つの家計改善法から、いま取るべき方法は?<対策1>

それでは、これらの問題に対して、相談者さんはどのような対策を講じるべきでしょうか?

常々申し上げているように、家計を改善させる方法は、(1)収入を増やす、(2)支出を減らす、(3)運用する(お金にも働いてもらう)の3つのみです。

相談者さんの家計支出は、現状でもタイトで、きちんと節約に励んでおられる姿勢を感じました。要するに、上記(2)について「これ以上は支出を減らせない!」といった悲鳴が聞こえてきそうです。

そこで、今後の可能性を広げるという意味でも、(1)について考えてみたいと思います。具体的に収入を増やす方法として、「給料を増やす」「転職やキャリアアップする」「バイト・副業する」「長く働く」「世帯の中の働き手を増やす」などが挙げられます。今回、ご提案する<対策1>は以下の2つです。

・現状64歳まで働く設定を69歳まで継続して働くことにする
・65歳から受給予定の公的年金を70歳まで繰り下げる

後者について補足説明しておきます。

公的年金は、本人の選択によって65歳より前に繰り上げたり、後に遅らせて70歳まで繰り下げたりできます。繰り上げをすると、1ヵ月につき年金は0.5%減になり、減額された年金を生涯受け取ることに。一方、繰り下げは、1ヵ月につき0.7%増となり、仮に70歳まで繰り下げると、年金額は42%増えるのです。

相談者さんの年金額は140万円ですから、70歳まで繰り下げた場合42%(0.7%×12ヵ月×5年)増額、70歳から受け取る年金は140万円×1.42=198.8万円となります。増額分は年額58.8万円、1ヵ月あたり4.9万円ですから、家計に与えるインパクトは大きいでしょう。ただ、年金額が増えると、税金や社会保険料の額も増えます。額面に比例して手取りが増えるわけではない点にご注意ください。

上記の<対策1>を実施した場合のキャッシュフロー表は以下の通りです(図表2)。60歳の定年退職後に収支がマイナスに転じはじめるのは同じですが、貯蓄残高は劇的に改善します。

図2

リスクの少ない方法で運用の検討も<対策2>

続いて、さらに対策を加えてみましょう。

ご相談者は、「株や投資には一切興味はなく、この先もやらないつもり」とのこと。それも一つの選択ですから、もちろんムリには勧めません。ただし、どれくらい効果があるものか知っていただくために、<対策2>として試算してみました。

<対策1>に加え、<対策2>として69歳まで「0.05%」で運用した場合、90歳時点の貯蓄残高は、<対策1>のみの2581万円から2859万円と278万円のプラスです。おそらくこれだけではわかりにくいので、現状、<対策1>、<対策1+2>の3つのキャッシュフロー表の貯蓄残高を比較した、45歳から85歳までのグラフで見てみましょう(図表3)。

図3

それぞれ、複数の対策を組み合わせると、家計は改善することがお分かりいただけると思います。ちなみに、「0.05%」というのは「個人向け国債」の最低保証金利です。個人向け国債は、国が個人向けに発行している債券で、1万円から購入可能。国が元本と利息の支払いを保証している安全性の高い商品です。

投資というと、つい身構えてしまいますが、お金の置き場所(ロケーション)をちょっと変えるくらいの感覚で、やってみるのも一手です。

試算は状況が変わればその都度行うのがベスト

このように、早いうちから将来の“不安のタネ”を解消させる方法を実施できるよう、準備をしておくことが大切です。継続して働くといっても、経験やスキルが伴う必要がありますし、健康が維持できなければ難しいからです。

なお、今回の試算は、あくまでも現状から予測される条件を設定したシミュレーションです。確定した未来ではありません。今後の状況が変われば、その都度、シミュレーションしてみることをお勧めします。日本FP協会のHPでは、キャッシュフロー表のほか、家計をチェックできる便利ツールが無料でダウンロードできます。ぜひご参考になさってください。

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