はじめに
「タピオカブームは株価暴落の前兆ではないか」――。昨年6月、このような書き出しで始まる記事「タピオカブームは本当に『株価暴落の前兆』なのか」で取り上げた「タピオカブームと株価の暴落」が当てはまる形となってしまいました。
2019年は「第3次タピオカブーム」ともよばれ、SNSで映えるタピオカドリンクが流行した年でもあります。たとえば、「業務スーパー」で冷凍タピオカを取り扱っていた神戸物産はブームの助けもあって、1年前の株価2,112円から、一時は2.17倍の4,600円まで値を伸ばすなど、思わぬ快進撃もみられました。
それでは、第3次タピオカブームが相場にもたらした顛末はどのようなものだったのでしょうか。
タピオカブームと相場の動き
図におけるオレンジの線は、前回掲載時から伸ばした日経平均株価の推移です。タピオカの人気度がピークとなった2019年の夏以降、相場は一瞬こそ軟調に推移していましたが、年末にかけては切り返す展開となりました。
しかし、日経平均2万4,000円台の定着に3度目のチャレンジが期待されていたときに、新型コロナウイルスによる経済停滞懸念によって株価は大きく下落してしまうこととなりました。
ここで日経平均株価のチャートをよくみると、第2次ブームの時でも一瞬だけ株価が切り返し、そこから下落基調になるという動きを示しています。
そこで、タピオカブーム中は買い、ブームが下火になると売りという戦略を検討している方もいるかもしれません。では、アノマリーから投資戦略を考えることは有効なのでしょうか。アノマリーについて、まずはおさらいをしてみましょう。
“アノマリー”をおさらい
アノマリーとは、具体的な根拠や理論をもって説明することはできないものの、経験則上よく当たるといわれる物事です。
アノマリーが相場と関係ないことであっても、アノマリーを信じる投資家たちがその通りに行動することで株価に影響が出てくることもあります。つまり、ある出来事と株価の変動に本質的な因果関係がなくても、それを信じる人が多ければ、その通りに株価が動くというものです。
たとえば、「IPOは公募価格を上回りやすい」という経験則をご存じの方もいらっしゃるかもしれません。現に2019年は90銘柄のうち77銘柄が公募価格を上回る初値を記録しました。ここからIPOは勝率が高いことが伺えます。
しかし、これが「IPOは公募価格を下回りやすい」という経験則であったらここまでの勝率となるかというと、そうではない可能性が高いでしょう。なぜなら、投資家はわざわざ損をする可能性の高いIPOに応募しなくなるからです。これによりIPOの倍率が低下してしまえば、自然と初値も公募割れしてしまうことになるでしょう。
本来、業績や事業環境が異なるのであれば、勝率が一方に偏ることは考えにくいのではないでしょうか。それでもIPOの勝率が高い背景には、「儲かる」というアノマリーを信じる投資家によって演出されている例といっても過言ではないのです。
一方で、アノマリーには「錯誤相関」というリスクがあることを忘れてはいけません。本質的には別の要因による株価の下落と、偶然時期が一致した事象に相関性があると錯覚してしまうというリスクです。
今回もタピオカブームによって株価の急落が引き起こされたようにもみえますが、実際は新型コロナウイルスの蔓延による影響の方が、「実体経済の停滞」という文脈から考えても説得的です。そして、たった3回の試行回数で、「今後も同様の結果が得られる」という考えも統計的に信憑性が低い言わざるをえず、やはり早計であるといえます。