はじめに
ダラダラ飲んでしまう人の無意識ストレス
――そもそも、「飲みたい」「酔いたい」と思う人と、そうでもない人の違いはどこにあるのですか?
ダラダラと飲んでしまうというのであれば、先ほど言ったように、その裏には、やはり何らかのストレスがある。今、どの人も自分の人生の計画が一回止まっている状態ですよね。いつ再始動するのかもわからない。再始動したとして、これまでの連続線上に人生が続くのかも未知数です。不安なので、あまり、先のことを考えたくないから、酔いたいとなるのではないでしょうか。
もう一つは、不安や怒りなど嫌な感情を遠ざけるために、早く時間が過ぎてほしいから酔いたいというのがあるでしょう。しんどい時間は過ぎるのが遅く感じます。今、家族以外とは会いづらい状況ですが、家族にもいろいろあり、その中で孤独な時間を抱えていると、早く時間が過ぎないかなと思って、つい飲んでしまう。
――自分の負の感情も、ごまかさず、できるだけ自覚的でいないといけませんね。「すでに依存症気味かも…」という人は?病院への外出もしにくい状況です。
都道府県政令指定都市には少なくとも一つは、「精神保健福祉センター」が設置されています。管轄内に住民票があれば、誰でも無料で電話相談を受けられます。確かに、今は対面での相談は控えているかもしれませんが、電話であればちゃんと相談に対応してくれます。自分の住んでいる場所のセンターはどこかをまずは確認していただければと思います。
また、自助グループへの参加は依存症からの回復に欠かせないものですが、ミーティングの会場が、公民館など公的な施設を使うことが多く、今それらは使えません。一方で、リアルで繋がりのない人たちも参加できる“オンラインミーティング”が、急ピッチで立ち上がり始めています。ASK (アルコール薬物問題全国市民協会)などが、Twitter や SNS でオンラインミーティングの情報をどんどん発信してくれています。困ったら、ぜひアクセスしてみてください。
――最後に、改めて、今、家飲みで飲酒量が増えている方にメッセージを。
繰り返しになりますが、家族間が密で一触即発の状態の中にお酒が入ると、本当にいろいろなことがこじれやすい。それで、コロナ離婚のように夫婦仲が壊れるのは、まだ仕方がないでしょう。でも、子供がいた場合、最も被害を受けるのは子供です。お酒をたくさん飲むライフスタイルは、この時期を過ごす方法として本当に有利なのか。ぜひ一度考えてみていただけたらと思います。
松本俊彦(まつもと・としひこ)
国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部部長。1967年生まれ。佐賀医科大学医学部卒業。神奈川県立精神医療センター医師、横浜市立大学医学部附属病院精神科助手、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター自殺予防総合対策センター副センター長/薬物依存研究部診断治療開発研究室長などを経て、2015年より現職。『アルコールとうつ・自殺』(岩波ブックレット)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『もしも「死にたい」と言われたら』(中外医学社)、『薬物依存症』(ちくま新書)、『「助けて」が言えない』(日本評論社)など著書多数。