はじめに
フルタイムのセックスワーカーは約4万人
──フランスのセックスワーカーの総数は?
2013年の政府の調査では約2万人。同年の警察の公表によると、10〜20%がフランス人、80〜90%が外国人で、東欧、ロシア、アジアなどの人々でした。しかし警察の統計は路上で摘発された件数を基にしているため、実際とはかけ離れています。
例えばエスコートガールは路上に立ちません。これらはカウントされていないわけです。
性別は、2016年に国境なき医師団が公表した調査結果によると、85%が女性、10%が男性、5%がトランスです。
──そのうち何割が申告しているのでしょう?
性産業協会全体としては、フルタイムで働くセックスワーカーは 、現在フランス全土に約4万人存在すると認識しています。セックスワーカーの中には、月に2回ほど本業の収入を補足するために働くという人もいますので、こういった人を加えると総数はさらに多くなります。
4万人のフルタイムセックスワーカーの中で、申告をしている人は何割か、これを明らかにすることは困難です。というのも、職業の偏見を避けるなどの理由から、企業登録の際に売春の項目を選ばず、介護など他の業種で登録をする人が多いためです。わかっているのは、申告している人のほとんどが私のような自由業ということ。売春の斡旋は違法ですから、会社員・従業員として契約のもとに働くセックスワーカーはゼロで、もしあるとすれば、直接の性行為のないストリップやマッサージサロンなどが考えられます。
──コロナ渦中とそれ以降では、どのような変化がありましたか?
私の経験をお話しすると、3月半ばから5月半ばまでのロックダウン中は、全く働くことができませんでした。依頼がなくなったこともありますが、クライアントを感染させないために、また自分が感染しないために、安全対策を守っていたからです。外出制限中はほとんどのセックスワーカーが、私と同じようにルールを守り仕事を自粛していました。
外出制限が解除された5月11日、早速2件の仕事が入りました。長い間一人で閉じこもっていた彼らは、人とのコンタクトを必要としていました。そして2件とも、通常は引き受けない遠距離の出張でした。
──その仕事を受けたのは仕事が減っていたからですか?
そうですね。コロナ禍以降クライアントが減っているので、出張の範囲を周辺の4県にまで増やしています。移動の時間が長くなり、1時間の仕事のために往復4時間を費やすこともありますが、やむを得ません。できるだけ2時間、3時間の依頼を得られるよう努力しつつも、やはり1時間が一般的です。
反対に、通常は断っている30分の依頼を多数引き受けることで、1日の収入を確保する対策も始めました。その場合は普段の私ではなく、別の人物として仕事をしています。なぜなら、もしクライアントが、私が安い仕事を引き受けるようになったと知ったなら、私のステイタス自体が揺らぎかねません。それを回避するために、アフターコロナの一時的な対策として、別の人物を作って仕事をしているわけです。今をしのぐことが最優先ですから。
──ルモンド紙は、客が少なくなったことを客自身が知っているために、厳しい値段交渉をするようになったと報じています。「意に染まない客の依頼も、引き受けざるを得なくなるかもしれない」という、リヨン(フランス第二の都市)のエスコートガールの言葉も伝えていました。
確かに値段は下がっています。私自身も、通常1時間約200ユーロ(約2万4,000円)のところを130ユーロ(約1万6,000円)に値下げしています。クライアントが減ったことに加え、経済状況が不安定になったことから新規参入者が増えました。需要が減り、供給が増えたわけですから、値下がり傾向は避けられません。
これとは別に、初めてストーカー行為に合いもしました。外出制限中、人々はたくさんの時間を持て余していましたから、エスコートガールの広告サイト閲覧者が非常に多かったのです。クライアントとしてリサーチするのではなく、ただ暇にまかせてエスコートガールにコンタクトをとる人が大勢いました。私たちはそんな相手にも対応しなくてはなりませんでした。
そのうちの一人が私と偽の約束をして、私がホテルに入るところを別の場所から観察していたのです。こんなことは8年前にカナダでエスコートガールを始めて以来、一度も体験したことがありませんでした。その後しばらく不安な状態が続きました。