はじめに

総合商社が小売と連携強化するワケ

上記のように、近年、総合商社が小売業と連携強化する背景には、小売業の収益が安定的なものであるという点が挙げられます。

近年、総合商社のビジネスモデルは「事業会社に投資をするファンドのような役回り」でといわれるようになりました。しかし、石油やガス、金属といった従来型のビジネスも依然として大きな割合を占めているのが現状です。

上記の五大商社では、各社の売上高のうち、概ね2~4割程度が資源やエネルギー関連の売上高となっており、決して無視できない存在です。現に、今年に入ってからの総合商社セクターは、資源に強い三菱商事が特に打撃を受けています。

一方で、この状況でも株価を大きく戻しているのが伊藤忠商事です。伊藤忠商事とその他の商社の間には「非資源ビジネス」の力の入り方という点で違いがあります。

非資源ビジネスとは、繊維や食料といった生活消費関連のセグメントも含まれており、価格変動が激しい資源ビジネスと比較して安定的な収益が見込めます。伊藤忠は、総合商社の中でこの非資源ビジネスの利益がトップでした。

今回のコロナショックで資源価格が大きく値下がりしたことも、伊藤忠が総合商社の中で存在感を高める上で追い風となりました。これも資源・エネルギーに強い三菱商事と安定的な生活ビジネスに力を入れていた伊藤忠商事の時価総額が逆転した要因のひとつといえるでしょう。

総合商社は世の中の動きの変化に応じ、起動的に事業やビジネスモデルを転換してきた業界です。足元ではコンビニエンスストアとの連携を強めていますが、よくよく考えてみると、卸売業の商社と小売業のコンビニ・スーパーが連携を強めることは、全体としてのコスト削減や業務の効率化にもプラスの影響を与える効果も期待でき、合理的といえるでしょう。

私たち消費者も、小売価格や商品の品質向上という点で恩恵をうける可能性があると考えられます。

<Finatext グループ 1級FP技能士 古田拓也>

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