はじめに

値上げによる負担増は年間3万円以上、ただし税負担は減ることに

31等級から32等級に変わることで標準報酬月額は3万円増になります。厚生年金保険料は3万円に保険料率18.3%を掛けた5,490円です。これを勤務先と折半するため個人では2,745円の負担増で済みますが年間では3万2,940円の増額になります。コロナの影響で手取り給与が少なくなった家計には痛手と言えます。ただし、悪い事ばかりではありません。というのも厚生年金保険料を支払うと社会保険料控除を受けることができるからです。つまり課税対象となる収入から控除額をマイナス計上できるため税額負担は減ります。例えば年収762万円(63万5,000円×12ヶ月)で所得税率20%かつ住民税率10%の場合、実際の負担増は年間2万3,058円ということです。

3万2,940円-6,588円(所得税率20%分)-3,294円(住民税率10%)=2万3,058円

所得税は累進課税ですから、高収入になるほど所得税率は上がり、結果的に厚生年金保険料の負担増を減らすことになります。

老後にもらえる厚生年金が約50万円増えるメリットも

最後に、厚生年金保険料を多く払うことでのメリットをお伝えします。そもそも厚生年金は払った保険料が多いほど将来の年金額が増える仕組みです。いっぽうで国民年金の受給額は払った期間に応じて決まり、40年間で満額受給は約78万円と決まっていて、保険料も一律です。どちらの仕組みがいいかは判断できかねますが、長生きリスクに対して一生涯受け取ることができる年金額が増えるのは嬉しいことではないでしょうか。例えば50歳から60歳まで10年間に32等級の保険料を払うことで増える年金額を見てみましょう。標準報酬月額が3万円増えた場合の厚生年金(老齢厚生年金)受給額の計算は以下の通りに行います。

3万円 × 0.55% × 120ヶ月(10年)= 1万9,800円

1年間で1万9,800円の受給増です。少ない金額に思えるかもしれませんが、82歳(男性の平均寿命)まで生きれば負担増分の年金保険料は回収することができます。また、長生きして90歳まで受け取れば、25年間で合計49万5,000円の受給増になります。

定年前の50代にとっては、今から収入を上げることの厳しさを既に感じていることでしょう。今回の厚生年金保険料の値上げに該当する人は、値上げ網に引っかかってしまったと損した気持ちになっているかもしれません。しかし、社会保険や税金などの制度を正しく知ることで、老後の家計にプラスとなることも広い視野でみていただきたいと思います。

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