はじめに
甥に確実に財産を遺す方法1)遺言の作成
最もポピュラーな方法は、ご相談者が亡くなった際に備えて、法定相続分を超えて甥に遺したい財産の詳細を遺言として書面で意思表示しておくことです。遺言作成には、主に自分で作成する自筆証書遺言と、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言などがあります。法的に有効な方法でないと他の相続人に異議を主張されて無効になってしまったり、また保管の問題もあるため、しっかり有効な方法を調べて準備をしましょう。法定相続人には法定相続割合の半分は遺留分という権利があり、もし遺言書を作成しても遺留分で揉める可能性がある場合、生前のうちによく話し合っておかなければなりません。すべての財産を配偶者や甥に残すなどの遺言は、他の法定相続人が遺留分減殺請求という手続きで請求ができる権利があるため、相続人に争いごとの種を残さないためにも、遺留分の侵害にも注意が必要です。
その他の注意点として、配偶者と一親等の血族(代襲相続人となった孫など直系卑属を含む)以外の親族への相続や遺贈では、相続税が通常より2割加算されます。そのため遺された財産の額が相続税の課税ラインである基礎控除枠「3000万円+600万円×法定相続人人数」を超え、かつ少しでも多く財産を甥に遺したいという場合には、このことも課題となってきます。
甥に確実に財産を遺す方法2)生前贈与や生命保険
他の方法としては、生前のうちに財産を甥に贈与する方法もあります。年間110万円までは贈与税は掛からず、遺言の場合と同様にある程度の範囲までは甥に確実に財産を譲ることが可能です。ただし、適正な贈与の手続きをして贈与をしないといけません。ご相談者が甥名義で口座や印鑑を作り、ご相談者ご自身で管理しているなどの場合だと、税務上は贈与が成立していないということになりますので気を付けましょう。
配偶者や直系血族・兄弟姉妹、または三親等内(甥は入ります)の親族で生計を一にする者へ、通常必要と認められる範囲で、必要な都度費消される形で贈与したお金は贈与税は掛かりません。生活費や学費や住宅購入費など、今まさに資金が必要な状況であればそれを支援するという方法もあります。また、甥を受取人に生命保険に加入しておくという方法も考えられます。
なお、現在の貯蓄は3500万円とのことですが、将来、ご質問者が亡くなったときの財産が基礎控除枠である「3000万円+600万円×法定相続人人数」を超える場合、遺言や生命保険で甥に財産を残すと、甥は法定相続人ではありませんので、相続税の2割加算の対象になりますので相続税の納税額が2割増しになります。死亡保険金は、法定相続人1人あたり500万円まで相続税が非課税になりますが、甥は法定相続人ではないのでこの非課税枠の適用はありません。もしご相談者の両親や甥の親である兄弟姉妹が、ご相談者の相続発生の時に既に亡くなっていて甥が代襲相続人となっている場合、甥は法定相続人となるので2割加算もありませんし、生命保険の非課税枠も活用できます。
甥に確実に財産を遺す方法3)養子縁組
甥と相互に我が子のように通じ合っているなら、甥を養子にするという選択肢もあります。
養子には、実親からの扶養や相続といった法律上の親子関係が維持される普通養子縁組と、実親との法律上の関係が完全に断絶される特別養子縁組の2つがありますが、特別養子縁組は実親が子供を虐待している、経済状況などにより監護者として子の利益を守ることができないなど、特殊な場合にのみ認められる制度のため、相続対策として行うのであれば普通養子縁組を採用します。
養子は、法律上は実の子の場合と同様に第1順位の法定相続人となります。養子は実の親(実親)と養子縁組の親(養親)の2組の親子関係が成立することになります。
すなわち、法律上はご相談者の法定相続人である子となりますので、相続順位が上がり、法定相続割合も増えます。相続税においても、相続税の基礎控除額が上がり、生命保険金の非課税限度額の適用もされることになります。
一般的には養子にすることまではなかなかしないと思いますが、相続対策としては強力な方法です。配偶者の法定相続割合が、配偶者と養子となった甥で1/2ずつになりますので十分な注意と慎重な検討が必要です。また、もしも養子縁組を解消するためには「離縁届」を役所に提出する必要がありますが、そのためには双方の合意が必要です。