はじめに

住宅価格の高騰が家計を直撃している

株価の上昇が続いているにもかかわらず、特に若年・中堅世帯で純貯蓄額が減少しているのはなぜでしょうか。それは、家計の負債が拡大しているからです。

日本の家計の負債は、そのほとんどが住宅ローンです。海外ではクレジットカードなどによる家計の借金が社会問題になっていますが、日本の平均的な家計ではこういった借金は少なく、日本において純貯蓄額が減少しているのは、住宅ローンの負債残高が増えたからなのです。  

住宅購入費、子の教育費、老後の生活費は人生の三大支出といわれていますが、このなかでも、住宅購入費は支出額が大きく、価格の変動が激しい項目のため、家計に最も重大な影響を与える支出項目といえます。住宅購入者は30代や40代が多く、影響が特定の世帯に局所的に生じることも住宅関連支出の大きな特徴となります。 

足元で30代を中心に負債が増えている背景には住宅価格の高騰があります。不動産の取得の形態は戸建てあるいはマンション、土地のみの購入と大きく3つありますが、近年の不動産価格の動向をみるとそのなかでも特にマンションの価格が急速に上昇しています。 

東京カンテイ「中古マンション70㎡価格年別推移」から、中古マンションの平均取引価格を時系列でみてみると、マンション価格が大きく上昇している様子が確認できます。首都圏の70㎡換算の中古マンション価格は、2000年の2,545万円から2008年には3,128万円をつけ、2019年時点ではそれを大きく上回る3,709万円で取引をされているのです。 

若年・中堅層の資産形成が困難に

日本の家計は、株式など住宅以外の資産の保有比率が低く、資産価格の高騰によって直接利益を得る人はそう多くありません。そうしたなかで、住宅価格の高騰が家計の負債(住宅ローン)に与える影響は無視できなくなってきています。

もともと資産を持っていた人がその資産額を拡大させる一方で、資産を持たない人にとっては新しい資産の保有が難しくなっています。資産価格の上昇は、資産保有者の資産額が増えますからそれで喜ぶ人も多いのですが、実は、資産の非保有者から保有者に向けた富の移転をもたらす側面もあります。

典型的な個人のライフサイクルは、資産を保有していない若年・中堅期に労働の対価としての賃金を受け取り、老齢期に向けて資産を形成していきます。しかし、資産価格が高騰するいま、資産を持たない若年・中堅層にとっては、その資産形成に困難が生じているのです。

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