はじめに
最悪のケースは納品先での発覚
自社の工場で不良品を発見し対応する、ということならまだマシなほう。最悪なのは客先に納品したあとに不良品が発覚するケースだそうです。お客さんは自社のその部品や材料を当てにして生産スケジュールをたてていますから、一度自社の工場にまた運びなおしてー、なんて悠長なことは言っていられません。となると、もう自分たちが行くしかなくなるのです。社内で組織された決死隊が客先の工場に出向いて、そっちで不良品の作り直しや作業をすることになります。
実際に今回取材させて頂いた方は1週間、愛知県の客先の工場に出向いて作業をした経験があるそうです。季節は真冬の12月、不良品を納品した会社の人たちに環境の良い場所が与えられるはずがありません。暖房も効かない広い工場で寒さに耐えながら、そして客先社員の冷たい視線を感じながら1週間作業をしたそうです。
想像するだけでも逃げたくなりますね。急な受注で増産依頼が来て、ということなら利益につながるわけですから頑張れるのでしょうけれど。
良くも悪くもとにかくある「手順書」
どれだけ単純な作業を任されると言っても、文系で技術に関する知識が全くない人にそんな応援作業ができるのか疑問に思いました。すると「メーカーではとにかくどんな作業にも手順書があって、仕事の手順をきちんと残しておくという習慣があります。いざとなったら引き継ぐ時間がなくても誰か代わりをすることができる。技術が失われないようにするための受け継がれたものがあるんですよ」と教えてくれました。
ただ、それも良し悪しがあるそうで、経費の処理や業務報告など基本的な手順が明確になっている仕事に関してはとても良い成果を生み出します。しかし、新しい企画を実行したり、売り上げを上げるために前例のないチャレンジをしたりすることなどにおいては、過去の作業や行動が無いわけですから、手順書を作るのが難しい。手順書を作ることが時間と労力のロスにつながることもあります。そして、手順書に残すとなるとどうしても「やり方が誰でもできる・分かる」ようにとシンプルになりすぎてしまい、深いノウハウの蓄積に繋がらないことも起こりえます。悩ましいところですね。
「生産応援」を支えるために「手順書」という習慣がある。ノウハウや技術の継承・標準化という面では素晴らしいが、時にそれが革新的なチャレンジの足かせになることもあります。この業界で働かれている方々も良い風土を残して、新しくチャレンジできる環境を作ろうときっと努力されているのでしょうけれど、取材をしてみて悪いところ(ブラック)も浮き彫りになったように感じます。
これから製造業への転職を考えている方は、ぜひ応募先の企業が昔ながらのスタンスを取るのか、効率やスピード化といった新しいスタンスを取るのか、調べてみてください。きっと転職先の新しい職場でも心構えが変わってくるはずです。