はじめに

残業ナシ、ノルマなし、期限ナシ。個人の頑張りに頼ることを徹底的に止めて、それでも10期連続で最高益を達成した上場企業があります。ワークマンです。いったいこの会社では何が起こっているのでしょうか? ワークマン専務取締役初の著書『ワークマン式「しない経営」――4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)から抜粋して紹介します。


仕事の期限は設定しない

ワークマンではさまざまな仕事に期限を設定しない。その代わり、やろうと決めたことは時間がかかっても必ず実現させる。

無理な期限を設定すると、締切を守ること自体が目的化し、仕事の質が下がる。期限までにできないとわかると、「達成しないと評価が下がる」「達成しないと恥をかく」など保身やメンツのために、仕事の質を落としてやりとげたことにしてしまうケースが多い。

一方で、期限がなければ、自分で工夫して必ずやりとげる。

まず、上場企業ながら決算発表を延ばした話を紹介しよう。

通常、決算発表は、「決算日から45日以内に行う」というルールがある。近年は決算の早期化という流れもあり、決算発表を延ばすのは異例のことだ。

当社は3月決算なので例年4月末に決算発表を行っていた。そのために経理部員の負担は大きく、残業続きになる。そうすると「働き方改革」の柱の一つである「長時間労働の是正」に反してしまう。同時に監査法人も残業する。短期間で監査を終えようとすると仕事の質が落ちる。高額な報酬を払っている監査法人には、厳格に決算数字や内部統制のチェックをしてもらいたい。

そこで決算発表日を1週間、延ばすことにした。

決算を遅らせたことで投資家から非難を浴び、株価が下がるかもしれない。一刻も早く決算情報がほしいアナリストからは批判されるかもしれない。

だが、トレードオフを覚悟した。決算の早期化はいいことだが、それで経理部員が体調を崩したり、監査法人がきちんと監査できなかったりしたら意味がない。本末転倒だ。

ゴールデンウィーク明けなら決算日から45日以内ルールに反さない。決算早期化という流れの中で勇気のいる決断だったが、経理部はストレスなく仕事ができたし、監査法人も余裕を持って入念にチェックしてくれた。

そして意外にも決算発表を遅らせたことによる株価への影響もまったくなかった。

働き方改革といってもスローガンだけの会社が多いと思う。人を大切にするという意味で「人材」を「人財」と表記する会社もある。気持ちはわかるが、根本的な変革にはつながらない。経営者は美辞麗句だけでなく、痛みをともなう改革で本気を見せるべきだ。

経理部に「決算期も残業しないように頑張れ」というのは経営ではない。

納期を無駄に厳しく設定したことで、コストが上がるケースもある。

たとえば、情報システムをITベンダーに発注するケース。納期間近になると、情報システム部員とITベンダーの開発要員が長時間残業になる。なかには応援として、派遣のシステムエンジニア(SE)を追加で依頼するケースもある。派遣SEは単価が2倍程度するし、突然チームに加わってもすぐに戦力にならないので仕事の質は下がる。

私は三井情報に在籍中、こうした風景を何度も見てきたので、ワークマンでは情報システムの期限は設定しないと決めた。

そのほうが品質がよくなるし、安くつくれる。消費税やショッピングバッグ有料化などの制度対応を除けば、社内の情報システムはすでに整備されているので急ぐものはない。障害になるのはCIOのメンツだ。CIOは緊急性のない情報システムの納期を社内で無駄にコミットしないほうがいい。

ただ、私も人の子なので、本音を言えば苦しいこともある。

仕事の期限は定めないといっても、納品日や開店日など、相手と約束している期限は確実にある。

ある店舗の開店予定日に足を運ぶと、誰も人がいない。

責任者に電話をしてみると、「開店準備のために残業が増えてしまいそうなので、開店を1週間、遅らせました」とあっさり言われた。

私は開店延期の知らせを聞いていなかったので、「おいおいちょっと待ってくれよ」と腹の中では思った。

しかし、会社は方針として「忙しかったら納期を遅らせろ」と言っている。私は感情を抑えながら「勇気ある決断だった」とほめた。ごくまれにだが、こんなこともある。

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