はじめに

私の魚屋としての気持ちは、「鮮度の良い魚を売る」「できるだけ安い価格で売る」というものです。しかし、フランチャイズのお店は私の考えと違う形で売り始めたんですね。毎月うちにはフランチャイズ料として幾ばくかのお金が入ってきていましたが、「これは私のやり方ではない」と思い、フランチャイズの店に「角上の看板をおろしてくれないか」と言いました。

すると、フランチャイズのオーナーも「いいですよ」と喜んでくれました。なぜなら、角上と契約を切れば、フランチャイズ費が節約できるわけで、向こうにとっても悪くない話だったと思います。

しかし、別の名前をつけて始めた元角上のフランチャイズの店はそれから5~6年で全部潰れました。ですので、以降は、本当に私の目が届く「直営店」だけでの営業を続けるようにしました。

――現在の直営店22店舗を、さらに増やす計画はないのでしょうか?

栁下: 今もあちこちの地域から「うちの辺りにも出してほしい」という要請をいただくことがあります。しかし、新店を1店舗出す際は、既存店から最低でも2~3名の主要従業員を抜き出し、新店の営業にあたらせないといけません。そうなると、業績が安定している既存店のほうがおざなりになりかねず、質が落ちてしまう可能性があります。

各店には地域ごとのお客さんがついてくださっていますので、もしそうなってしまったら結果的に地域の方々の期待を裏切ってしまうことにも繋がりかねません。

私の目が行き届くという意味でも22店舗くらいが限界ですし、新店よりも既存店を育てて、質を維持しながら、売り上げを伸ばしていくほうを大切にしています。

2000年、都内で初出店となった角上魚類小平店

今も会長自ら競りに出向く

――堅実な経営方針と合わせて、今でも栁下会長自ら市場に仕入れに行かれるそうですね。

栁下: 現在、木・金・土で私を含める7名の専業バイヤーと一緒に新潟の競り場に行っています。同時に東京・豊洲に6名の専業バイヤーが行っています。新潟と豊洲のその日の朝一番の競り場の魚がどんなもので、どれくらいの価格で売られているかを、双方で連絡を取り知らせ合い、「どのタイミングで仕入れるか」を決めています。

各店は信用のおける社員に任せていますが、競り場や市場で仕入れを行い続けているので、店頭でも「その魚が高いか、安いか」「的確な販売方法であるか」がすぐにわかるわけです。なので、仕入れの現場には創業以来ずっと回り続けています。

――一般にスーパーなどで販売されている魚は、このような仕入れ方ではなく、他商品とのバランスで利幅も多く取らないといけないようです。競りはどのような仕組みで行われるのですか?

栁下: 新潟の場合は、例えばある魚が1箱3000円でスタートしたとします。買い手がつかなければ、2900円、2800円と値が下がっていきます。「そこで買います!」と手を挙げると落とせるわけですが、他の地域の競りはだいたい値が上がっていく仕組みですから、新潟は真逆なんです。

私が競りに行く際はあらかじめ、「良い魚を見つけたら、どれくらいの量を、どれくらいの金額以下なら買う」と決めて参加します。どうしても仕入れなければいけない魚が高かった場合、仕入れる量を抑えるなどして調整しています。新潟と豊洲とで連絡を取り合い、「こっちはイワシを150箱買った」「こっちは50箱買った」とやり取りし、各店への供給を振り分ける仕組みです。

新潟市内にある新潟漁協の競り場。週末は御年80歳の栁下会長自ら競りに参加します

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