はじめに
5月12日に発表された4月の米消費者物価指数(CPI)は、前年同月比4.2%上昇と、市場予想の同3.6%上昇を大幅に上回りました。これを受けて市場には動揺が走りました。
インフレが「懸念」から「現実」のものとなりつつあると警戒感が高まり、米国の長期金利は7bpsも上昇し1.7%前後になりました。長期金利の上昇を受け、株式市場ではハイテク株が急落しました。ダウ工業株30種指数、S&P500種株価指数、ナスダック総合指数の主要3指数は、そろって大幅続落となりました。
市場に広がる「テーパリング開始」の認識
株価が大きく下げたのは、インフレの高進が米連邦準備理事会(FRB)による大規模な金融緩和を早期に縮小に向かわせるのでは、との思惑が台頭したからです。
FRBは、あくまでもCPIの上昇は一時的との見方を堅持し、2023年末までゼロ金利政策を続ける姿勢を崩していません。ただ、マーケットは神経質で先走る傾向があります。「年内にもテーパリング(量的緩和の縮小)が開始されるのではないか」との観測が浮上しています。
気の早い向きは、6月15~16日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)で何らかの示唆を市場に提示し、8月のジャクソンホール会議でFRBはテーパリングの開始を議論するとの見方まであります。
さすがにそこまで早期のテーパリング観測はまだ少数派ですが、年末から年明けくらいにはテーパリング開始というのが市場のコンセンサスとなっているのではないかと思われます。
先進国で経済正常化に向けた歩みが進み、すでに一部では金融政策を修正する動きが出ています。カナダ中銀は4月の金融政策決定会合でテーパリングを決めました。ノルウェー中銀も年内に利上げに踏み切る姿勢を示しています。
今の物価上昇は新型コロナによる一時的なもの
では、本丸のFRBのテーパリングはどうなるのでしょうか。筆者の考えは市場のコンセンサスより相当後ろ倒しに遅くなるだろう、というものです。その根拠は、やはりインフレに関する見方です。
筆者はインフレがコントロールできないような上がり方をするとは到底、思えず、むしろ現在のCPI等の上昇はFRBと同じく一時的な特殊要因によるものだと考えています。
昨年のいまごろはコロナで経済が完全にストップしていました。パンデミックの影響で昨年の春は統計が大きく落ち込んでいたので、その状況と比べればインフレが高く出るのは道理です。
これは比較にゆがみが生じる「ベース効果」と呼ばれるものです。例えば原油価格ひとつとっても昨年春には先物がマイナスになるなど異常値でしたから、それと比べたら今は原油だけで前年比200%という上昇率になります。
それ以外の理由としても、やはり経済が止まっていたところに急速に需要が戻れば供給が追い付かないのも当然です。4月のCPIが予想を大きく超える上昇となったのは、中古車価格の異常な高騰が最も大きな要因でした。
米労働統計局によると、セダンやピックアップトラック、スポーツタイプ多目的車(SUV)など中古車の価格は4月に10%上昇。1953年までさかのぼるデータで最大の伸びとなり、4月の消費者物価指数(CPI)の前月比上昇率(0.8%)への寄与の3分の1余りを占めました。
中古車が値上がりしている理由は、半導体不足で新車生産が減少したことがあります。新車がないので消費者とレンタカー会社は必要な車を中古車市場で調達することを余儀なくされているのです。その結果、自動車オークション価格の指標は急伸していて、4月に前年同月比54%上昇となりました。
コロナ感染を嫌って公共交通機関を避けるため自家用車のニーズが高まっていることが背景にありますが、これも一種のコロナ禍の「特需」でいずれ平常に戻るでしょう。