はじめに
夫に万が一の死後、自宅を売るには義両親の承認が必要!?
――契約者が亡くなると自宅が配偶者と義両親の共有財産となってしまうのは知りませんでした。そうなった場合にどのようなトラブルが想定されますか。
江面: 例えば、引越しや売却などで家を手放したいときには、義理の親の承諾が必要となってしまいます。「子どもの進学で駅の近くの家に住み替えたい」、「広い家だったけど狭い家に引っ越したい」、「家を売却して実家に帰りたい」となっても、共有者全員の同意が必要です。
その家に住み続けているのが妻だけだとしても、もし義両親が売却に反対すれば、売却がスムーズに進まないことになります。そのようなことも見据えて、ご相続発生時には妻は義両親と遺産分割協議で資産をどう分けるのか決めなければいけません。当事者同士の協議がまとまらなければ家庭裁判所に調停を申し立てるなどして解決を図ることになります。
こうならないためにも「自分の死後は自宅を妻に遺す」といった夫の遺言がとても重要になってくるのです。遺言などがなければ、単独相続を求めるために妻が「自宅を私だけの名義にしてください」と義両親に頭を下げてハンコを押してもらうのは大変な負担でしょう。義両親と疎遠になっていたり折り合いがうまくいかなかったりすることもあると思います。
個人で遺言を作成・管理するリスクとは
――「ハウジングウィル」の提供を始めたのは、そういったトラブルを防ぐためでしょうか。
江面: そうですね。そもそも住宅購入はこれから始まる幸せな生活を想定しているタイミングなので、契約者が亡くなることを考えることは少ないでしょう。当社で住宅ローンをご契約いただくお客様でも、ご契約者様の死後に自宅が共有財産になることをご存知ない方も多い現状です。
ちなみにイギリスでは34歳までで30%もの人が、60歳までで60%もの人が遺言を書いていると言われています。自分の死後の財産について遺言であらかじめ決めておくことがスタンダードな国もある中で、日本でも死後のトラブルを防ぐためにも遺言が一般的になってほしいという思いも込めています。住宅ローンを取り扱っている信託銀行だからこそハウジングウィルをご提供することでお客さまに少しでもお役に立てることができればとの思いでサービスを開始したものです。
また1年に1回、照会という機能を通じて遺言内容の見直しをするので、家族の変化を捉えてライフプランを一緒に相談させていただくきっかけづくりをしたかったというのも理由です。住宅購入は家という資産ができて住宅ローンという負債ができますから、人生のバランスシートのコンサルティングをさせていただきたいという思いもありました。
――「ハウジングウィル」を利用しなくても、たとえば「自分の死後、自宅は妻のものとする」という内容の遺言書を書いて自宅に保管していても相続は有効なのでしょうか?
江面: もちろん有効です。ただ、当人の死後に遺言を発見した人が家庭裁判所に届け出て検認を請求しなければ自筆証書遺言は有効になりません。そのため家族に遺言の場所を共有しておかなければ発見されないリスクがあります。
また、ただ書けば安心というわけではないのが遺言です。ライフプランに応じて内容を見直さないと、数十年後に亡くなる際に「当時はこう思っていたけど、生前になって心境や状況が変化した」ということもよくあります。個人が遺言を作成して管理する上では、さまざまなリスクがあることも認識していただきたいです。
共働きのご夫婦も多いので、最近ではペアローンを組む方も増えています。当サービスではペアローンで申し込まれる場合でも、お互いの持ち分を残し合う内容をご夫婦それぞれが遺言に書くことができます。
独身で住宅ローンを組む方も、ご自身の死後に財産をどうするのかを考えておく必要があります。終活は晩年になってから行うイメージをされている方も少なくないでしょう。しかし、人生でも最も高額な資産ともなり得る住宅購入の際こそ、終活を意識していただきたいですね。