はじめに
先週、株式市場では中国の不動産大手、中国恒大集団のデフォルト(債務不履行)懸念から株価が急落、世界同時株安の様相を呈する場面がありました。
その後、中国恒大集団が23日に期日を迎える人民元建て債の利払いを実施すると発表したことで市場は安堵し、FOMCの結果が想定内だったこともあって株価は急反発しました。ダウ平均は急落する前の水準に戻り、日経平均も3万円の大台を回復しました。
しかし危機的状況は変わっていません。23日期日の人民元建て債の利払いは行われましたがドル建て債は利払いが行われなかった模様です。ただし30日の猶予期間があるためすぐにデフォルトとはなりません。
その後も続々と利払い期日が到来し、年内の社債の利払い額はおよそ円に換算すると700億円にのぼります。来年からは社債の元本の満期償還も迎えます。果たして恒大集団は負債返済のキャッシュを確保できるのでしょうか。
取引先への未払い分などを含めた恒大の負債総額は1兆9,665億元(約33兆4,000億円)と中国の名目国内総生産(GDP)の約2%に相当する規模です。これだけの負債を抱えた企業が倒産すればその影響は計り知れません。
一部では「第二のリーマンショックとなるのでは」と危惧する声も聞かれます。ですが筆者はそうなるとは考えていません。今回はその理由を解説します。
<写真:ロイター/アフロ>
負債額は巨大だが恐怖感は大きくない
第一の理由はリスクが見えていることです。この点がリーマンショックとは決定的に異なる点です。
リーマンショックは信用の低い人への住宅ローン、いわゆるサブプライム・ローンを複雑な仕組みで証券化したCDOというデリバティブが世界中にばらまかれ、しかもそれらは何重にもレバレッジがかかる構造になっていたために、どこにどれだけのリスクがあるか誰も把握できなかったのです。
そのために人々は疑心暗鬼になり、カウンターパーティー・リスクを極度に恐れ、信用収縮が急激に起こりました。金融市場では流動性が一気に枯渇して健全な企業も資金を調達することができなくなってしまったのです。
それに対して今回の問題は恒大の債務だけの問題で、負債額は巨大でも「見えている」だけに恐怖感はそれほど大きくありません。中国の銀行全体として恒大に過剰融資などはおこなっていないため債権者も広く分散しています。
また、仮にこの問題が飛び火したとしても中国の不動産セクターに限られるでしょう。全容まではわからないものの、どこにどれだけのリスクがあるかは、だいたいのところ把握できます。したがってリーマンショックのような極度の信用収縮は起こらないと思われます。