はじめに
不動産関連の政策支援が見込めない3つの理由
過去の景気悪化局面では、不動産は景気刺激のツールとして用いられてきました。しかし、筆者は今次局面においては、次の3つの理由から、当局が不動産政策の厳格スタンスを大きく転換することは期待しづらいと考えています。
まず、当局が不動産デベロッパーの慢性的なレバレッジ体質をリスク視していることが挙げられます。不動産投資が鈍化したきっかけは、当局が不動産デベロッパーへの財務改善目標を設定したことでした。不動産デベロッパーの負債は76.2兆元(名目GDP比約77%、2019年時点)と巨額で、過去のデレバレッジ政策下でも積み上がっていました。
こうした状況を当局がリスク視したことがデベロッパーへの財務目標設定の背景の1つと見られます。従って、デベロッパーのデレバレッジに明確な進捗がみられるまで、現行の厳格な不動産政策スタンスは続く可能性が高いと言えます。
続いて、当局が新たに設定した14次5カ年計画と2035年までの長期目標において、製造業の高付加価値化・内製化と内需拡大の促進が柱となっていることが挙げられます。これは、当局が人口減少に転じることも視野に、これまで中国経済をけん引してきた外需と投資主導の成長モデルからの脱却を図っているものと考えられます。
成長モデルの転換という大きな目標の下、当局は不動産政策を厳格化する一方でハイテク製造業を中心とした製造業の設備投資優遇を行い、投資資金の誘導を図っている可能性があります。従って、現在の不動産投資の鈍化は、景気への悪影響はさておき、傾向としては好ましいものと考えられます。支援対象となっているハイテク製造業の投資は、例えば通信機器・コンピューターの製造業では1~9月に前年比+24.4%と、不動産投資とは対照に堅調で、こうした流れは当局が長期目標を大きく変えない限り続くものとみられます。
最後に、習近平氏が主張する共同富裕の思想と不動産政策厳格化の相性の良さも指摘できます。この思想は脱貧困を達成したことで、今後は皆が平等に豊かになる社会を目指すというもので、社会主義色の強い思想といえます。この思想の実現に向け、当局は富の再分配強化を表明しています。
北京や上海、深センなどの大都市では、算出方法でブレますが、住宅価格は年収の20~30倍を超えるとの試算もあり、富の象徴と目される不動産に対する政策スタンスの緩和は見込みにくい状況といえます。
まとめると、不動産投資への厳格な政策スタンスには、(1)債務リスクの予防、(2)政策支援対象の変化、(3)格差是正、という3つの側面があるとみられます。これらがそれぞれ長期的な発展目標と共同富裕の思想に絡んだ内容であるため、主導する習近平氏の権力基盤が揺るがない限り、現行の不動産政策は大きくは変わらず、不動産投資の鈍化が続く可能性が高いでしょう。