はじめに
基準日によって大きく変わる騰落率
もうひとつ、預貯金の利率と投資信託の騰落率とでは決定的に異なる点があります。
預貯金の利率は将来受け取れる収益を示すのに対して、投資信託の騰落率はあくまでも過去の運用実績であることです。
1年物定期預金の利率が年0.3%だとしたら、それは1年後の満期日時点で元本に対して0.3%の利息が戻ってくることを意味しますが、投資信託の騰落率はあくまでも過去の収益率なので、将来受け取れるリターンがどうなるのかは誰にも分かりません。仮に過去10年間の騰落率が150%だったから、今後10年間も150%のリターンが実現するとは限らないのです。10年間でマイナスのリターンになることだって、十分に考えられます。
騰落率がそういう性質のものである以上、雑誌やサイトに掲載されている騰落率のランキングは、投資信託を選ぶ際の判断材料にはならないことが分かると思います。
たとえば2021年10月末を基準日にした過去10年間の騰落率ランキングを見て、最も騰落率が高い投資信託を買ったとして、10年先も他の投資信託に比べて高い騰落率で運用できる保証はどこにもないのです。そうである以上、騰落率ランキングで投資信託を選ぶのはナンセンスです。
また、騰落率はいつを基準日にするかによって、ランキングや数字が大きく変わってしまいます。
過去1年の基準価額で考えてみましょう。次のような基準価額で推移した投資信託をイメージしてみてください。
2020年7月末 1万円
2020年8月末 1万1,000円
2020年9月末 9,000円
2020年10月末 1万2,000円
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2021年7月末 1万2,000円
2021年8月末 1万円
2021年9月末 1万3,000円
2021年10月末 1万1,000円
このように基準価額が推移した投資信託の過去1年間騰落率を、2021年7月から10月まで計算すると、次のようになります。
7月末……20%
8月末……▲9.09%
9月末……44.44%
10月末……▲8.33%
7月末の過去1年間騰落率は20%なので、まあまあ良い運用成績であるように見えますが、その1か月後の8月末時点における過去1年間騰落率は▲9.09%まで低下します。さらにその翌月は44.44%というように急上昇し、さらにその翌月は▲8.33%まで急落します。
以上はやや極端な例ですが、このように基準価額が大きくブレる投資信託になると、どこかの時点で騰落率を計算した結果、ランキングの1位に上がったとしても、その翌月にはランキングで20位、30位まで下がってしまうということも起こりえます。つまり一時点の騰落率ランキングを見ても、投資信託を選ぶ際の参考にはならないのです。