はじめに

富裕層はなぜ暦年贈与をするのか?

相続税は、相続した財産に対して課税されます。税率は超過累進課税といって、課税される金額が大きくなるにつれ、高い税率が適用されます。最高税率は55%にもなります。相続税は、相続財産を相続した人が納めますが、被相続人の相続開始を知った日から10か月以内に納税します。相続財産の金額が多い場合には、相続税の納税を期日までに現金で用意するのは大変な労力を要します。

また、2015年(平成27年)の改正によって、基礎控除額が減額されて、相続税の納税が必要な人が増えています。国税庁が令和2年に発表した「令和元年分 相続税の申告事績の概要」 によれば、死亡した人に対する相続税の申告が必要な被相続人の数の割合は、8.3%です。改正前にくらべて税負担が大きくなったことがわかります。

また、2015年改正によって、課税金額が2億円超の人たちを対象に、税率が5%ずつ上がりました。暦年贈与は相続税にくらべて税率が高くなっていますが、繰り返し行うことで節税効果が得られます。特に財産を持った富裕層ほど相続税の負担が重くなってしまったので、生前贈与を活用して節税のために、次の世代に財産を移転する動きがあります。中には、相続税への持ち戻しがない孫へ基礎控除以上の金額を贈与して、相続財産を積極的に減らす人もいます。

相続税と贈与税の一体化とは

現在の日本の税制では、暦年贈与を長期間、何度も行うことで、税金がかからない財産をつくることができます。そこで2021年度の税制改正大綱では、富裕層とそうでない人との格差の固定化を防止するとともに、諸外国の制度を参考にしつつ、贈与税のあり方を見直すことが示されました。今まで多くの人が、相続税対策として利用してきた「暦年課税」が「相続税と贈与税の一体化」によって、なくなる可能性が出てきたのです。

それでは、諸外国の相続に関する課税方法はどうなっているのでしょうか。
現在の日本の税制では、被相続人の死亡の開始前3年以内に受けた贈与は、相続財産に取り込まれて加算(持ち戻し)して相続税を計算します。贈与税と相続税は、別体系になっています。

たとえばドイツでは、贈与された財産が10年以内の場合に相続財産に加算(持ち戻し)されます。これに対しフランスでは、加算(持ち戻し)される年数が15年です。この2つの国の場合には、贈与税と相続税は統合されているので、一定期間の生前贈与と相続での税負担は一定になります。

さらに米国の場合には、贈与税と遺産税は統合されており、一生涯での生前贈与と相続で取得した財産を合わせた税負担になっています。

もちろん諸外国すべての税制度が網羅されているわけではありませんが、日本の暦年課税が財産を移転させる時期によって、「税金がかからない財産」として有利に働く場合が多く、中立な立場にないことが問題視されているのです。現在より長い期間によって、贈与財産を相続財産に加えることで、相続税の回避行為を防止できるというわけです。どんな改正になるかは不明ですが、ドイツやフランスの制度が採用されるのでないかという、専門家の意見があります。

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