はじめに

(3)経済が成長すること

公的年金で大切なことの3つ目、実は私はこれが最も重要ではないかと考えているのですが、それは「経済が成長すること」です。経済が成長すれば、当然給料も増えます。年金保険料というのは簡単に言えば給料に一定の割合をかけた金額を徴収しているわけですから、給料が増えるということは年金保険料も増えます。

また、一定の年齢になって新たに年金を受け取り始める人(これを新規裁定者と言います)は賃金の上昇にスライドして年金額が決まります。したがって給料が増えるということは年金額も増えるということになるのです。

もちろん経済が成長すれば物価も上昇しますが、極端なインフレにでもならない限り、通常の状況では賃金の上昇率は概ね物価を上回ります。したがって経済が成長し、給料が増えるということは、今の生活だけでなく将来の年金にも好影響を与えるのです。

そもそも年金の積立金が200兆円近くあるという、他の先進国では考えられないような余裕ができたのも公的年金制度が拡大した時期が昭和30~40年代の高度成長期であったことと無縁ではありません。一般的にはよく当時はまだ高齢化社会になっていなかったから人口構成で有利だったと言われます。そうした側面が全くないとは思いませんが、それよりもむしろ経済成長が果たした役割が大きかったのではないかと思います。

何しろ昭和30年代の我が国の経済成長率はおよそ9%、40年代前半の経済成長率は11%台ですから今では考えられないような数字です。当然、給料も上がりました。ところが我が国の給料は2000年以降、ほとんど増えていません。やはり経済成長とそれに伴う賃金の上昇というのは、社会保険の制度にとっては非常に重要なことと言っていいでしょう。

ここでお話しした公的年金で大事なことの(1)と(2)は言わば制度の問題であり、ガバナンスの問題でもあります。これらは法律を作り、行政が執行することで解決することはできますが、(3)の経済成長は行政の側で直接何かできるというものではありません。私たちは何かと言うと、国が悪いとか行政が悪いと言いますが、年金について言えば、最大の課題は経済の成長だと私は思います。そのために民間の企業を中心として経済のダイナミズムを復活させるのは政治の役割でもあり、何よりも私たち国民1人ひとりの役割なのです。

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