はじめに

「成功体験」が呼び込む「失敗」

ところが、そんなユーロ売りトレードは、2016年後半からうまくワークしなくなりました。一番の原因は、単純にユーロ安からユーロ高に変わったことでしょう。ユーロ/円は、2016年6月の109円から、2018年2月の137円まで上昇傾向が続いたのです。

ユーロ高だったら、ユーロ買いに転換すれば良さそうですが、そうなると低金利通貨のユーロは相対的に不利になります。買うのに適した、ユーロより金利が高い外貨は沢山ありました。その意味では、ユーロ安局面が終わったなら、取引対象をユーロから他の通貨に換えるのがより良い選択なのでしょう。

ただ、当事者にとっては「言うに易く、行うに難し」です。ユーロ売りで成功した投資家は、ついついユーロとの相性の良さを感じてしまいがちなようです。ユーロ売りトレードの成功は、低金利通貨のユーロにとって相性の良い下落局面だったからということで、もちろんそれは頭では理解しているのでしょうが、一方で「成功の記憶」からもなかなか抜け出せない--そういった経験は、FX取引に限らないところでも多くの人にあるのではないでしょうか。

わかっているけど止められない-、そんな主観を諫めるのが難しい場合は、できるだけ多くの客観指標に触れて、状況変化の理解に努める必要があるでしょう。この場合なら、既にユーロが大きく下落する局面ではなくなったことを、客観的に確認することこそが必要だったのではないでしょうか。

図表2は、ユーロ/円について、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)からのかい離率をあらわしたものです。グラフが上に伸びると、過去5年の平均値よりユーロ/円が上ぶれている、つまり「上がり過ぎ」といった意味になり、グラフが下に伸びた場合はその反対の意味になります。

【図表2】ユーロ/円の5年MAかい離率 (2000年~)
(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

これを見ると、ユーロ/円が150円手前で頭打ちとなった2014年12月前後は、記録的なユーロ「上がり過ぎ」だったことがわかるでしょう。「上がり過ぎ」のユーロは、さらなる上昇の可能性は限られる一方で、下落リスクが極めて高い状態だったと言えます。その意味では、低金利通貨のユーロを売る絶好の状況だったと捉えることができます。

ところが、既に見てきたように、2016年にかけてユーロ下落が大きく広がった中で、ユーロの「上がり過ぎ」も是正されていきました。2016年に入ってからのユーロは、とくに「下がり過ぎ」というほどではないものの、「上がり過ぎ」が是正されたことで、このグラフを見るだけでは、「下がるか上がるかわからない」、そんな状況に変わっていたわけです。


「大きく下がる確率がとても高い」といったユーロ売りトレードに最適な状況が既に終わったということを、客観的に確認することで「成功体験」を諫めるということです。

そんなことは分かっているけれど……と言っているうちは、FXでの「失敗」を繰り返してしまいそうですから、改めて参考にしてみてください。

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