はじめに

アラフィフ世代が住宅購入を考える際、ローン返済の資金として年金を考慮に入れることでしょう。

そこで、公認会計士でコラムニストの千日太郎 氏の著書『初めて買う人・住み替える人 独身からファミリーまで 50歳からの賢い住宅購入』(同文舘出版)より、一部を抜粋・編集して年金の受給額について解説します。
編注:初出時に書名に誤りがありました。


いくらの年金をもらえるのか? 繰り上げ受給か繰り下げ受給か?

老後の収入の大きな柱となるのが老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)です。加入期間が10年以上あればもらえるようになっています。毎年の誕生月に届く「ねんきん定期便」では50歳になると、現状の年収のままで60歳まで働いた場合の年金見込み額がわかるようになっています。

老齢年金の支給開始は原則65歳からとなっていて、その後は亡くなるまで生涯もらえるお金ですが、支給開始年齢よりも早く受け取る、すなわち60歳から64歳までの間に受け取り始めることを「繰り上げ受給」と言い、逆に65歳以降70歳になるまでの間に受け取ることを「繰り下げ受給」と言います。

最近は定年の延長によって65歳まで働く人が増えつつあることと、繰り下げ受給を選択することで年金受取額が最大42%も増えることなどから、繰り下げ受給を選ぶ人が増えてきています。ただし繰り下げ受給を選択するにあたって注意点が3つあります。

(1)繰り下げ中は加給年金等を受け取れない

年金加入者が65歳になった時点で配偶者が65歳未満の場合、配偶者が65歳になるまで「加給年金」を受給できますが、年金の受け取りを繰り下げている期間は、この加給年金を受給できません。ただし、加給年金が支給されるのは老齢厚生年金に対してなので、老齢厚生年金は繰り下げをせず、老齢基礎年金だけを繰り下げる方法もあります。夫婦の年齢差が大きければ、こういうやり方も検討すると良いでしょう。

(2)繰り下げで増えた42%にも税金がかかる

70歳まで繰り下げをすると受給額が42%増額されますが、これによって年収が増えることになるので、税金や社会保険料も同様に増えます。したがって、手取り収入で42%増額になるわけではない点に注意が必要です。

(3)繰り下げても遺族厚生年金は増えない

例えば配偶者が長らく専業主婦(夫)だった場合は、年金加入者の死後に配偶者は遺族厚生年金を受け取ることになります。しかし、その受取額は加入者が65歳時点の年金額をベースにするため、繰り下げ受給を選択していても妻の受け取る遺族厚生年金が増えることはありません。

このように繰り下げを選択するにあたって注意すべきことはありますが、それでも増えた年金を生涯もらい続ける安心感は大きいです。「年金が支給されない間は貯金を取り崩して生活する」状態で定年を迎えるのではなく、定年後に2回目の学びと働きのサイクルを得られて、それで生活できるならば「繰り下げ」は明らかに有利な選択肢となるでしょう。

もちろん繰り下げとは逆に、65歳よりも前に「繰り上げ」で受け取ることもできます。「年金なんていつ破綻するかわからない、そうなる前に早くもらっておくべし」と考える人もいるでしょう。ただし、繰り上げ受給を選択した場合の注意点についても知っておくべきです。

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