はじめに

前回、米ドルの特徴として「有事の米ドル買い」を紹介しました。

次に米ドルの特徴として取り上げるのは、「世界一の経済大国」米国の通貨ということです。結論的に言うと、世界経済は一般の予想以上に「世界一の経済大国」米国の影響が大きく、その結果為替相場もかなりの割合、「米ドル変動の結果」となっている可能性があるということなのですが、順を追って説明したいと思います。


「世界一の経済大国の通貨」という影響力

まずは、通貨と密接に関係する金利について見てみましょう。図表1は、日米の長期金利、10年債利回りの推移を比較したものです。これを見ると、両者は水準も変化の幅も大きく異なっています。金利は、景気や物価などのファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)を反映しているので、その意味では、図表1は、日米のファンダメンタルズの違いを示していると受け止めることもできるでしょう。

ただ、この2つの金利の目盛を左右軸に分けて、重ねたものが図表2になります。これを見ると、値動きはかなり長い時間帯で重なり合って推移していたことがわかるでしょう。日米のファンダメンタルズには違いがあるのに、なぜ金利はこれほど連動したのか。考えられるのは、「世界一の経済大国」米国の金利に、日本の金利が連動している時間帯が多かったのではないかということでしょう。

では、それは日本の金利に限ったことなのか。図表3では、同じ期間の米金利に、今度は欧州を代表する独の金利を重ねてみましたが、これもほぼ重なって推移したことが確認出来ました。

グローバリーゼーションの時代において、世界経済のつながりは一段と緊密になっています。そうした中で、「世界一の経済大国」米国の影響力は、これまで見てきた長期金利については一段と強まっているということではないでしょうか。簡単な言い方をすると、先進国の金利は、基本的に米国の金利でほぼ決まっているということです。

一般的には、日独などの金利は、それぞれの国のファンダメンタルズや政策によって決まるものと理解されているのではないでしょうか。ただこれまで見てきたことからすると、実はそれ以上に米国の金利の影響が大きくなっている可能性があるということです。

ここまで金利について見てきましたが、通貨価値はそんな金利に裏打ちされていますから、通貨の強弱についても、「世界一の経済大国」米国の通貨、米ドルの影響力の大きさはより意識する必要があるのではないでしょうか。

例えば、ユーロ/米ドルの値動きは、ユーロ圏の経済動向や金融・経済政策で説明しようとされますが、実際には米ドルの影響がより大きい可能性があるということです。「世界一の経済大国」米国の影響力が、グローバリーゼーション時代でより大きくなることで、通貨ペアの決定要因においても、実は「米ドル変動の結果」となっていることが多いと思います。

2021~2022年に、米ドル高・円安が大きく進んだ動きなどは、まさにその典型と言ってもよいでしょう。米国で約40年ぶりの物価上昇、つまりインフレが広がると、その対策として米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)は利上げを積極化し、このため米国の金利は大幅に上昇しました。そうなると、もちろん米ドルも大きく上昇。その裏返しとして円安も記録的に進むところとなったのです。まさに「大幅な米ドル高の結果としての大幅な円安」が広がったわけです。

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