はじめに
投資に関する知識は学んだけれど、実際に投資をして経験を積み上げていくにはどうすべきか、悩んでいる初心者の方もいるでしょう。
そこで、アマゾンジャパン元経営会議メンバーの星 健一氏の著書『amazonが成長し続けるための「破壊的思考」』(扶桑社)より、一部を抜粋・編集してアマゾン社内の独特なルールを紹介します。
企画書は「仮想プレスリリース」
ドキュメント作成に関する社内文化にも、アマゾンには独特のルールがある。
なかでも「PR/FAQ55」のルールはユニークだ。「PR/FAQ」とはすなわち、Press Release(プレスリリース)とFrequent Asked Questions(頻繁に尋ねられる質問)のことである。
「プレスリリース」といえば、何らかのサービスがローンチ(開始)する際、文字通りプレス(メディアの記者)などに向けて発表するドキュメントのことである。でも、アマゾンでは新規のプロジェクトを社内で提案する時に、まずは将来的にそのサービスなり事業がローンチしたことを想定した仮想プレスリリースを書くことが求められるのだ。
リリースの内容にも厳格なルールがある。まず「どんな顧客にとってどんなメリットがあるのか」を明示しなければならない。新規プロジェクトの企画書は、得てして提案者側の都合のいい論理で組み立てられる。でも、アマゾンにおける新規プロジェクト提案は、顧客目線のプレスリリース1枚で、その価値をアピールする必要がある。
サービスなどの名称、どんなことで困っている誰に向けて、このサービスを提供することでどんなメリットをもたらすことができるのか。プレスリリースは必ずそのポイントを踏まえて作成するのがルールとなっているのである。なぜならば、このプレスリリースは「Working backwards from Customers」(顧客の立場になって行動する)というアマゾンの考え方の一つのツールになっているからだ。
「FAQ」セクションでは、外部からと内部から想定される質問の両方を記載する。外部向けFAQとは、報道関係者やお客様からの質問を想定したものだ。例えば、「この商品はどこで購入できますか?」とか、「この商品が壊れた場合はどうすればいいですか?」などだ。
社内向けFAQは、自身のチームメンバーや経営陣が尋ねる質問である。例えば、「この商品を2万円で販売する際に粗利益率を30%確保するためにはどうすればいいのか?」「この商品を開発するために、何人の開発エンジニアを新たに雇用する必要があるのか?」などである。
プレスリリースは顧客の体験の象徴的な部分を読者に伝え、FAQでは顧客の体験の詳細と、その製品やサービスを開発するためにどれだけのコストがかかり、困難さの度合いなどを徹底的に評価するのである。よって、担当チームはPR/FAQを書き上げていく過程で、事業部長などのシニアリーダーと何回もレビューミーティングを繰り返し、議論し、アイデアを洗練させていくのである。
プロジェクトの立案時、まず顧客目線のPR/FAQから作成することには「ゴールが明確になる」というメリットがある。実際に仕事を進める中で、仕入れの都合や自分たちの手間暇を考慮して「ここは我慢しておこう」といった妥協が生じることはありがちだ。しかし、プレスリリースに明記した顧客のメリットを損なうことがあってはならないという「軸」が定まる効果がある。
もう一つ重要なのがそのルールである。PR/FAQでは、書き手が長い説明文や図表を挿入したりと書き手の視点で自分の仕事内容をすべて説明するだけで、結果、何が重要で何が重要でないかという難しい判断を避けてしまうことがある。それを防止するためのルールがあり、プレスリリースは1ページ以内、FAQは5ページ以内と強制することにより無駄な内容を省き、本質的な部分にフォーカスをさせるのである。
参考例として私が最後に統括したB2BモデルであるAmazon Businessのプレスリリースを見てみよう。
なお、FAQについては社内ドキュメントであるため、割愛する。