はじめに

今回は、新興国通貨で高金利通貨の代表格である南アフリカランドの特徴について説明したいと思います。南アランドを含めた新興国通貨の主な特徴は2つです。一つは高いボラティリティ、そしてもう一つは相対的に高い金利です。


高いボラティリティ

ボラティリティとは、和訳すると変動率。つまり高いボラティリティというのは、相場がよく変動する・動くということで、これこそ新興国通貨の特徴の一つです。どれだけ高いボラティリティかを考える上で、米ドル/円、ユーロ/米ドルとの比較で見てみましょう。

ボラティリティの指標の中で、最も簡単に計算できるのは高値を安値で割る方法です。例えば、2021年の米ドル/円の高値は115.516円、そして安値は102.594円なので、前者を後者で割ると12.6%になります。同じ方法で、ユーロ/米ドルについて計算すると10.4%。要するに、米ドル/円、ユーロ/米ドルといった先進国通貨同士の通貨ペアの2021年の最大変動率といった意味でのボラティリティは10%程度だったわけです。

一方、同じ方法で南アランド/円について計算すると22.7%になりました。以上のように見ると、先進国通貨同士の通貨ペアに比べて、南アランド/円のボラティリティは、ほぼ倍になっていたわけです。高いボラティリティ、よく動く新興国通貨ということがわかっていただけたのではないでしょうか。

よく動くということは、収益チャンスではありますが、一方でリスクも大きいということです。こういったことから、一般的に新興国通貨はハイリスク・ハイリターンの投資対象と位置付けられています。

高金利の魅力とリスク

そして、2つ目の新興国通貨の特徴は相対的に高い金利ということです。例えば、南アランドの場合、中央銀行が金融政策の目安とする政策金利は、さすがに2020年の「コロナ・ショック」の後は3%台まで引き下げられ、高金利の印象が薄れましたが、一方で「コロナ・ショック」の直前までは6%以上でしたから、高い利回りを魅力に感じる人が多くても不思議ではないでしょう。

ただ、ここからが重要なのですが、この高金利を理由に「新興国通貨への投資は相場の値上がり益は期待せず、金利収入を主目的とした長期保有が良い」といった考え方はしっかり吟味する必要があると思います。

というのも、そもそも高金利の背景には、高いインフレ率ということがあります。インフレとは物価上昇なので、つまり「モノ」の価値が高いということなので、相対的に通貨価値の下落といった意味になります。

分かりやすいのが、南アランド/円の長期チャートです(図表1参照)。このように、長期的には右肩下がりで展開、つまり通貨価値の下落が続いたことがわかるでしょう。これを同じ期間の米ドル/円のチャートと比べてみると、より違いが分かりやすくなるのではないでしょうか(図表2参照)。

【図表1】南アフリカランド/円の推移 (2000~2022年)

【図表2】米ドル/円の推移 (2000~2022年)

つまり、米ドル/円は、高いところで買った米ドルが下落しても、何年か待てば買った水準まで戻ってくる可能性がありましたが、長期的な下落トレンドが展開している南アランドなどの新興国通貨の場合は必ずしもそうではなく、割高な水準で買った新興国通貨が下落した場合、二度と買った水準まで戻らない可能性がある、ということです。

この結果、せっかくの高い利回りに伴う金利収入も、相場の値下がり、つまりキャピタルロスによって帳消しになってしまうリスクもあるのです。その典型が、代表的な新興国通貨、高金利通貨であるトルコリラだと思いますので、それは改めてトルコリラのパートでお話ししたいと思います。

新興国通貨投資の考え方

ここまでの説明の中で、新興国通貨投資についてとくに理解してもらいたいのは、金利収入期待の新興国通貨は、相場の値上がり益、キャピタルゲインを期待しないながらも、値下がり損といったキャピタルロスへの注意は必要だということです。では、大幅なキャピタルロスを回避するために必要なのは何か。

割安な相場は下落しても限られるのに対し、割高な相場が下落すると大幅な下落になるリスクがあります。新興国通貨は高金利の裏側で、インフレを受けた通貨価値の下落リスクを抱えています。ということは、じつは新興国通貨投資こそ、中長期的な割高か割安かの見極めが重要なのでしょう。

さて、今回は南アランドを含めた新興国通貨全般についての説明となりました。新興国通貨の多くは、資源・穀物との関係が深く、南アフリカの場合は、世界有数の金産出国ということで、金相場の影響を受けやすいということを最後にお伝えしておきます。

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