はじめに

「みんなが使ってる」よりも「私が推せる」方が大事

かつては「みんなが知っている状態」を目指すことが、ブランドにとっての至上命題でした。なぜなら「有名な会社ならきっと安心だ」と考えられていたからです。

しかし、先ほど述べたように価値観やライフスタイルが多様化した今、 問われているのは認知度ではなく、社会や環境に対してどのような取り組みを行っているのかという「ファクト」と、それに基づいた「ブランド・プロミス」です。

要するに会社の規模よりも「まともなブランド」なのかどうかが、よりシリアスに問われるようになったわけです。「知ってる」と「推したい」は全く違うんです。

では、そもそも、なぜ消費者との「約束」が重要になったのでしょうか? 

ひとつは、明確にSNSの影響があると思います。

想像してみてください。

最近、あなたはマス広告を見て何かを買った記憶はありますか? あるいは、マス広告で見たものを友人におすすめしたことはありますか?

おそらく、パッと思い出せるものは、あまりないと思うんです。

モノを買う時のブランドの認知経路や、推奨の過程においてSNSが大きな役割を果たすようになると、「みんなが知っているもの」をわざわざ誰かにあえて教えてあげようとはなりません。また、誰かに教えてあげようと思う際、そのブランドがまともじゃないと、自分自身の信用も疑われます。

「え、なんであんなの、おすすめしてきたの? センス悪いね」とは思われたくない。

例えば、私が友人に何かの健康食品をすすめる時、メジャーなものを、わざわざおすすめすることはないと思うんです。むしろ「これ、知ってる?」とまだ知られていないものをすすめて、ちょっと自慢したい。

また、成分や原料が安心できるものや、ブランドのストーリーがちょっとユニークな商品じゃないと、私自身の信用を失ってしまいますよね。

だからこそ、 「君は知らないかもしれないけれど、これはいいものだ」と言えるブランドこそが、支持を集める のです。

D2Cがブームになっている理由も、本質は、ここにあるのではないでしょうか。

Glossier、allbirds、MVMT、Casperなど、最初の方に知った人たちは熱心に友人に「これ知ってる?」と話した経験があるはずです。私も随分話しました(笑)。

クチコミが重要な時代になると、製品のよさに加えて企業やブランドの姿勢が非常に重要になってくる理由はそこにあります。

よくマーケターが「ナラティブ」とか、「ストーリーテリング」とか言いますが、要するに 「こういう取り組みをしているブランドだ」と誰かに言えることが大事 なのです。

例えば、ブランドとして、製造過程にどのようなこだわりがあるのか、労働者とフェアな契約を結んでいるか、環境の負荷を考えているか、社内にハラスメントはないか、など。まさにFentyは、「こういうブランドなんだ」と語れる要素がいっぱいあります。

有名なD2Cも、広告に予算をかけずに、原価率を高くして製品の質をよくしていることや、動物実験などをしないことを誓うなど、人や社会、環境などに優しいエシカルな取り組みをしていることや、ダイバーシティ&インクルージョン(社会的包摂)への取り組みを熱心に語っていますよね。

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