はじめに

Z世代が抱えるメンタルヘルスの問題

他の世代を論じることの難しさはよくわかっていただいたかと思いますが、ただ、その中でも「これは、確かに実在するイシューだ」と言えることもあります。

そのひとつが、若者の「メンタルヘルスの問題」です。

コロナで先行き不透明になってしまったこと、普通に学校に行って友人と会えなくなってしまったこと、政治家の振る舞いやメディアの発信が信頼できないこと、つながりすぎてしまったSNSの中で、むしろ孤独を感じていること……。

これで若者がメンタルにダメージを受けない方が不思議ですよね。

実際、米国APA(アメリカン・サイコロジカル・アソシエーション)が2020年に行った調査によれば、アメリカの18歳から23歳の若者の約70%が2019年にうつ病の症状を呈し、ストレスレベルは6.1(全成人の平均は5)となっています(APA2020)。

学校に行けないことや、将来の計画が立てられないことが原因である、とレポートは伝えています。今、コロナの影響もあり、世界的にもメンタルヘルスに関するサービスや、研究報告が続々と出てきています。

セレブリティがメンタルヘルスに関する話をするのは、従来は「タブー」でしたが、今は大坂なおみや、ビリー・アイリッシュ、BTSのシュガもメンタルヘルスについて発信していますし、あるいは、アパレルでもメンタルヘルスのことをテーマにした「マッドハッピー」が流行したり、メンタルヘルス関係のアプリなども次々と登場しています。

「Z世代は人口も多いし、購買力もありそうだから、ガンガン売っていこう」と、無邪気に考えてはいけないのだと思います。

調査を見ていくと、 Z世代も、とても難しい状況に立たされているし、なんらかの助けを必要としていることがわかってきます。

重い話が続きますが、彼ら・彼女らの置かれている心理的な状況について、事例を交えてお話ししていきます。

孤独が社会的な問題になっている

メンタルヘルスに関連する課題の中でも、孤独の問題が(世代や国境を超えて)議論されています。

英国には孤独問題担当大臣のポストが設置されているということを受けて、日本でも孤独・孤立対策担当大臣のポストが設置された話がニュースになりました。日本も含めて、孤独はパンデミックと同様に大きな社会問題になってきているのです。

高齢者の孤独の問題については、みなさんも、ある程度想像がつくと思うのですが、SNSを使っているZ世代も孤独なんだと聞いて、疑問を抱いた人もいるのではないでしょうか。でも、実はSNSを使っているからこそ、若者が孤独を感じてしまうという逆説が起こっているんです。

つまり、SNSで誰かと誰かのつながりが見えれば見えるほど、「自分はつながっていない」ことも同時に可視化されてしまう ということです。

例えば、自分の友人が、誰かと開催したパーティの写真を投稿していたとします。

すると、自分はその場に呼ばれてないことに「気づく」。

あるいは、LINEのメッセージが未読無視されているのに、他のグループではその人が返信しているのが「見える」。

これは、まさにパラドックスです。つながっているからこそ、つながっていない部分も過剰に見えるようになってしまったわけです。

また、何万人もフォロワーがいる人が、孤独ではないかというと、そんなことはありません。むしろ、自分が落ち込んだ時に、「本当に」味方をしてくれる人が何人いるかを考えると、何万人も「本当の自分」を知らないフォロワーがいることの方が疎外感を感じて、つらくなることだってありえるのです。

2008年に、情報社会学者の濱野智史氏が『アーキテクチャの生態系』という著書の中で、当時流行っていたケータイ小説の『恋空』を論じています。濱野氏はこの小説の中で、ケータイ電話の着信音などに、人間関係の濃密な記憶が託されていることを指摘し、「操作ログ的リアリズム」という新しい文学の概念を提唱していました。

今まさに、SNSの「操作ログ」こそが人を孤独にさせ、痛めつける時代になったのです。

無視されることは、交通事故と同程度に「痛い」もの

TED Talksでも有名になったガイ・ウィンチという心理学者がいます(著書に『NYの人気セラピストが教える 自分で心を手当てする方法』など)。

彼によれば、そもそも人間は集団から拒絶されることが、とても「つらい」と感じる動物なんだそうです。

よく言われているように、人間は狩猟採集民族の時代から「バンド」と呼ばれる集団を形成して生活を営んできました。人間は、一人ひとりは非力なので、群れからはぐれてしまうと命が危ない。

だから集団から「拒絶」されることは、ほぼ「死」を意味し、人間に対して非常にきついダメージを与えるのだそうです。いじめられた経験がある人はよくわかると思うのですが、クラスメートから「拒絶」されることほど、きついものはありません。下手したら、暴力をふるわれる以上に無視はきつい。

つまり「SNSでの無視」も、人間が群れから阻害された時と同じようにリアルに「痛い」のです。 拒絶された時に人間が感じる痛みは、実際に交通事故にあった時に感じる痛みと同じ程度だといわれています。

だから、皆さんは、この先、悪意を持って誰かを無視してはいけません。その行為は、人を殴っているのと同じ効果を持つからです。

もちろん、しつこくて嫌な相手は「ブロック」せざるを得ない場合もありますが……。ここが本当に人間関係の難しいところですね。

ちなみに、ガイ・ウィンチ氏の主張で興味深いのが、 交通事故などで怪我をした場合には人は「応急処置」をするのに、人間関係で「拒絶」を受けて傷ついた時の処置は、一般的にはされていないことを指摘している 点です。心の痛みの「処置」の仕方を、そもそも習ってこなかったことが問題だというのです。

心の痛みも、処置せずにほっておくと、メンタルヘルスを大きく損なってしまうわけですね。

投資管理もマネーフォワード MEで完結!配当・ポートフォリオを瞬時に見える化[by MoneyForward]