はじめに

友達リストを整理する勇気がありますか?

孤独といえば、コロナ禍以降、 若者たちは「友情」をどのように保てばいいのか、あるいは新しく友達を見つけるにはどうすればいいのか、真剣に悩んでいる ということもわかっています。

スウィンバーン工科大学の調査によれば、コロナの期間中にオーストラリア人の54%、イギリス人の61%、アメリカ人の66%の消費者の孤独感が高まったそうです。

コロナの影響においては、「弱いつながり」の友人との接点がなくなったことが指摘されています。

とても仲のよい親友レベルの友人や家族であれば、デジタル上でも関係をなんとか維持できるのですが、物理的に学校や職場に通うからこそ、その場でなんとなくおしゃべりしたり、お茶をしたりする「弱いつながり」の友人との関係が、コロナによって一気に切れてしまったんですね。

友達から友達を紹介してもらう形で、新しく人と知り合う機会もめっきり減りました。「弱いつながりというけれど、もともと、そんなに親しくない人なら、失ってもいいんじゃないか」と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。

社会学者のマーク・グラノベッター氏の研究で、「転職」など 、人生において有益な情報は、親しい友達や家族ではなくて、意外にも「弱いつながり」の人から得ている場合が多い、 と述べた有名な論文があります。

とても親しいというわけではないけれども、たまに会ってお茶するくらいの友人こそが、案外有益な情報をもたらしてくれているというわけですね。セレンディピティこそが、実は人と社会との重要な接点になっていたわけです。

親しい友人や家族とだけ交わっていても、「世界」は広がっていきません。むしろ、同じような価値観にだけ触れ続けることで、煮詰まってしまったり、関係も「重く」なってしまいます。

新しいことを始めたいと思っても「いつものメンバー」に相談したところで、意外なアドバイスは期待できません。弱いつながりが失われることで、「新しい出会いのきっかけ」がなくなり、孤独感や閉塞感は高まってしまうのです。

友人関係もPDCAで円滑になる?

そのことと関係してか、コロナ以降、欧米では「友人とは何か」や、「友人のつくり方」に関する書籍やポッドキャストが急激に人気になってきています。

書籍の中でも特に有名なのが、オックスフォード大学で進化心理学を研究しているロビン・ダンバー氏が書いた、その名も『Friends』という本です。

この本の中で、ダンバー氏は、友人にもいろいろなカテゴリと優先順位があることを、思い切って素直に認めていいのだ、それによって罪悪感を感じなくてもいいのだ、ということを提唱しています。どういうことでしょうか。

ダンバー氏によれば、コロナの最中に、SNSやスマホでつながっている膨大な「友達」の整理をするというと、多くの人が、どこか罪悪感を感じてしまうかもしれないけれど、そもそも、人間は、最も親しい友人なんて、同時に5人くらいしか持てないし、ライフステージによってその5人は変わりゆくものなのだから、この際、思い切って整理してもいいのだと言います。親しい友達なんて「変わっちゃうもの」として、受け入れようというのです。

いくら親友だと思っていた人も、ライフステージが変われば、「優先順位」なんて変わってしまう のが自然だし、これまでも人は人間関係を整理しているのだから、そんなに「整理」を恐れなくていい。コロナの期間に、親しさの優先順位が変わるのは普通だと、このようにダンバー氏は主張しているのです。

コロナによって、弱いつながりが失われ、「親しい人」の優先順位も変わってしまう場合もあるでしょう。それはとてもつらいことですが、受け入れるしかないのかもしれません。

友達といえば、私がカルチャーショックを受けたのは、友人関係を「メンテナンス」するためのアプリまで登場したことです。「Call Your Friends」というアプリは、友人とどのような距離でどのような頻度でやりとりすればいいか、連絡を取るべきタイミングを「プッシュ通知」などで教えてくれる機能を持っています。

アプリをダウンロードすると、まずは現状のチャットのログから、あなたが、どの人と一番親しいのか、優先順位を解析してくれます。その中で、例えばあなたがAさんと友人関係を続けたい場合、このアプリはAさんに連絡を取るべきタイミングや、メッセージの内容について、アドバイスをしてくれるのです。

友人関係において、下手に連絡しすぎると「重い」とか、逆に連絡を怠ると「ちょっと疎遠だな」と思われたりするわけですが、そうならないように適切な距離感やタイミングを掴むのをサポートしてくれるわけです。それをウェブの解析のごとく、PDCAを回しながら「友情メンテナンス」をするのです。いやはや。

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