はじめに
突然のがん。体や命の心配はもちろんのこと、「これから治療費は払えるのか?」「生活をどうしていったら良いか」と不安を感じている方も少なくありません。一日も早く治療費の悩みを減らし、治療に臨むための対処法を、看護師としてがん患者やその家族のケアに携わった経験を踏まえてお伝えします。
「がん診断直後」か「診断から1年経過後」に困る傾向
がん患者さんとその家族から治療費や生活費の相談を受けていると、悩む時期に2つの傾向があることがわかりました。
1.診断直後
「がんになったけれど、がん保険に入っていなかったから、治療費を払っていけるか心配」という声は様々ながん患者さんから寄せられています。
その中でも白血病などの血液がんや進行した状態で見つかったがん、再発や転移のがんの場合は、治療が長期に及ぶ可能性があると医師から説明を受け、漠然とした不安を感じている方が多いです。
2.診断から1年経過後
思った以上に治療が長引く、または治療自体は終了していても免疫機能や体調が復活するまで時間を要するなど復職がなかなか難しい場合、この時期にお金の不安が大きくなる傾向があります。
・がん保険の診断給付金や貯蓄などのお金が底を尽きてきそうな時期であること
・健康保険の傷病手当金の終了(1年6カ月)が見えてくる時期であること
・職場によっては定められている休職の期間が迫ってきている
上記などが原因として挙げられ、かなり差し迫っている状況の方もいます。では、どのように対処していけば良いのでしょうか。
がん治療中のお金の対処法
健康な方がお金に悩んでいるときには、自身や家族が仕事を増やすことや、食費や光熱費を節約するといった方法が解決策の一つとなります。しかし、がんなど病気を抱えているときは体も心も負担が増えてしまうため、この方法はお勧めできません。
そこで、がん治療中に体も心も無理がなく続けられるお金の対処法として、筆者が相談者にお伝えしているのが、適切な制度活用や、仕事を調整するなどして収入源を確保すること。そして支出を整理しながら治療費にまわしていくという方法です。
(1)制度を活用する
がんと診断された直後にまずできることは、「限度額適用認定証」の申請と「傷病手当金」が利用できるかの確認です。
公的医療保険適応の治療の場合、高額療養費制度によって、収入に応じた自己負担限度額までの支払い(一般的な収入の方だと1カ月あたり約8万円)となりますが、医療費の3割(69歳までの場合)を一旦は窓口で支払い、後から自己負担限度額までの差額が戻ってくる(※)というしくみです。
※入院時の食事負担や個室の差額ベッド代は除く
画像:厚生労働省保健局ウェブサイト「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」より引用
「限度額適用認定証」を病院の会計窓口で提示することにより、立替払いをせずに自己負担限度額までの支払いで済み、お金のやりくりも楽になります。なおマイナンバーカードをお持ちの方は、健康保険証の手続きを行うことで、限度額適用認定証の役割も果たすことができます。
会社員や公務員の方は、がんの症状や治療による影響で働けず、十分な報酬が得られない場合に、審査に通ると健康保険から「傷病手当金」として給料の約2/3を受け取ることができます。有給休暇との兼ね合いもありますので、職場に確認しながら休職の計画を立てていけると良いでしょう。休職中も社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料)や住民税は支払いますので、ご注意ください。
また診断から1年経過後の場合は、障害年金の申請も視野に入れていきましょう。年金と言うと、高齢者のためというイメージもありますが、障害年金は20歳以上の方が対象となります。
今までの年金保険料の支払い状況や、体の状況がどの程度生活や仕事に影響を及ぼしているかにもよりますが、審査に通れば年金として受け取ることができますし、がん治療中の方も病状や治療による影響などで申請されています。