はじめに
新たな控除「小規模企業共済」
晴れて開業して事業主となった場合、新たに活用できる控除があります。それは小規模企業共済掛金という制度を活用した控除です。これは会社員の副業というよりは、今後は退職して事業主として専業に切り替えていきたい方向けの制度です。
この制度は、事業主が将来廃業したとしても、誰も退職金を出してくれないので、自分がしっかりと働いているうちに将来自分に支払う退職金を少しずつ積み立てておいて、廃業時に一括または年金のように分割で受け取ることができるというものです。掛けられる金額は月1,000円から70,000円と自分で設定でき、途中で変更もできます。
この制度の良いところは、自分が将来受け取る退職金を積み立てているだけなのに、その積み立てた金額は税金の計算をする上で「控除」として引いてくれます。所得税の計算時には、「積み立てた金額 × 税率」分の税額が安くなるということです。
所得税は年間の所得に応じて税率が変わり5〜45%、住民税は固定で10%です。月に5万円掛けていると、年間60万円を積立てておくだけで、税金が9〜27万円も安くなるということです。
ただし、この制度の注意点は「対象は個人事業主」という点です。
つまり会社員が副業で事業主として活動している場合は対象外となります。加入するためには一度会社員を辞めなければならない……なんて大袈裟なことになりますので、小規模企業共済に加入する場合は、開業届を出すタイミングも含めてよく検討してください。
さらにこの小規模企業共済掛金制度は、受け取る時も税金が優遇されています。
事業を始める時に開業届を出したのと同様に、事業をたたむ時には、税務署へ提出する廃業届という書類があります。廃業届を出すことで、これ以上事業をやりません、ということになるので、積み立ててきた小規模企業共済の掛金を、退職金として受け取ることができます。
退職金は税金の計算をする上で、控除額というのが設定されています。働いた年数によって控除額は計算され、勤続1年から20年の間は1年当たり40万円の控除額を受けることができます。つまり事業主として開業してから10年間続ければ400万円の控除が受けられるし、20年続ければ800万円の控除が受けられるということです。
20年を超えると1年当たり80万円の控除に増えます。つまり30年働けば1,600万円の控除が受けられるということです。控除額の範囲内であれば、800万円や1,600万円という大金を一度に受け取っても税金がかからないということです。またこの控除額を超える部分については、分割で受け取って年金所得とすることができます。
年金所得についても、老後のための蓄えを切り崩して生活するようなものなので、税額の計算をする上で、控除額も多めに設定されています。掛け金を積み立てている間は控除を受けて税金を安くしてもらい、廃業して受け取る時にはまたまた税額を0、または安くしてもらえる、なんて……喜ばしい! と言いたくなる制度ですね。
失業保険の兼ね合い
会社を退職してから、起業して事業主になろうという人も多いと思いますが、注意しなくてはならないのは失業保険との兼ね合いです。
会社都合か自己都合かによって待機期間など異なりますが、失業保険の給付が始まってから開業届を出さなければ、失業している状態とみなされず、「事業主になっているんだから、失業者じゃないよね? 失業保険いらないよね」ということで、失業保険の認定を受けられないこととなります。失業保険の給付をどうしても受けたいという場合は、 注意が必要です。
しかし、そもそも会社を辞めて起業を予定している人は、本来の制度としての「失業」とはいえませんよね。「もらえるものは貰わないと損!」と、待機期間を待ってまでして失業保険を受け取って、受給を終えてから開業届を出すという人がいるようですが、開業する予定なら待機中や失業保険を受け取っている間に事業主としての機会を逃しているかもしれません。
当初から開業を予定されている方は、是非失業保険の受給を考えることなく、潔く開業届を出して事業主になって活躍していただきたいなと思います。
「これ使えたらお得じゃん!」という話もいろいろありますが、本来の制度の趣旨を考えると、対象外となるケースもあります。貴重な時間を使い、せっせと申請しても対象外になってしまい「なんて……嘆かわしい!」とならないよう、本当に自分が該当するのか検討した上で、正しく節税や給付を受けていただきたいと思います。