はじめに
iDeCo+誕生の背景
中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)は2018年5月に誕生しました。施行当時、この制度の対象は社員数100名以下の中小企業でしたが、2020年10月に300人以下と対象が拡大されました。制度誕生の背景は、大企業と中小企業との生涯賃金格差だといわれています。
大企業と中小企業の年収やその他福利厚生を比較すると、やはり前者の方が恵まれている傾向にあります。また大企業の方が退職金も高い傾向にあります。特に老齢年金は現役時代の収入に比例しますから、現役時代の年収が高ければ老後の年金収入も多くなります。さらに大企業であれば企業型確定拠出年金(DC)が導入されているケースも多いのですが、中小企業ではまだまだあまり導入されていません。
企業型DCは制度の導入時、運営時に費用が掛かります。また制度整備と維持に様々な手続きが生じ、社員に対する適切な教育も継続的に行っていかなければなりません。すると、それらの負担が負えない中小企業は、なかなか導入できないのです。しかしこれではますます格差は広がるばかりです。
そこで、加入者自らが費用を負担する個人型確定拠出年金・iDeCoに掛金を上乗せ拠出するだけなら、会社も負担が少ないだろうとiDeCo+を制定することで、せめて社員の老後の支援を会社にしてほしいという国の願いもあったといわれています。
これとは別に筆者はiDeCo+の「口コミ効果」に期待を寄せています。iDeCoの加入者数は増えているものの、やはりここでも大企業にお勤めの方や公務員の方の加入が顕著で、中小企業にお勤めの方はまだまだ少ないといわれています。
もしそのような方の職場にiDeCo+が導入されたらどうでしょう?「iDeCoをすると会社からお金がもらえる」という噂は、瞬く間に社内に広がるのではないでしょうか?
iDeCoは税制優遇が優れた資産形成の仕組みですが、だれにとっても初めはよくわからないものです。しかし、職場で「iDeCo」という言葉が飛び交い始めたら、これまでiDeCoに興味がなかった方や、日々の生活費の中から掛金を出すのは厳しいとiDeCo加入をあきらめていた方も、iDeCoをやってみようとなるのではないでしょうか?
またiDeCoは始めるにあたり金融機関を決めたり、運用商品を決めたりしなければなりません。これも不慣れな人にとっては相当ハードルが高いものですが、同僚から様々な情報やアドバイスがあれば、もっと気楽に始められるでしょう。このようにiDeCo+が普及し、職場での口コミが広がれば、iDeCoへの加入者がさらに加速的に増えるのではないかと考えています。
iDeCo+の導入条件
このようにiDeCo+は社員にとってはメリットしかありません。事業主の掛金があったところで、iDeCoの掛金上限が上がるわけではありませんが、自分のポケットからお金を出すより、会社が出してくれるならとても助かります。
しかし会社がこの制度を導入していなければiDeCo+は利用できませんから、この機会に条件があう方は会社に導入を検討してみてもらうのもよいかもしれません。
iDeCo+を導入できるのは社員数300人以下の厚生年金に加入している会社と定められています。また企業年金がないことも条件です。企業年金とは、厚生年金の上乗せとして会社独自で準備する福利厚生制度です。企業型確定拠出年金(DC)、確定給付企業年金(DB)、厚生年金基金がそれに当たります。
制度を導入するためには、労使合意が必要です。経営側から積極的に制度導入を進めてくだされば一番良いのですが、残念ながらiDeCo+はまだまだ認知度が高くありません。そのため「会社の福利厚生拡充」として社員側から提案するということも考えられます。どこの企業も採用や人材の定着に熱心に取り組んでいますから、この提案は受け入れられるかもしれません。