はじめに
暦年贈与は税制改正でルールが変わるかも?
暦年贈与は、相続税の税率よりも低い税率により親族へ毎年生前贈与をしていくことにより、相続税の軽減を低くしていく方法です。生前贈与についての詳細は以前別記事にて解説をしておりますのでここでは割愛します。(総資産2億超えの52歳会社員「娘に有利に生前贈与したい」)
ここで、近年における留意点ですが、2022年8月末現在「相続税と贈与税の一体化」の法改正に向けての議論が進んでいると報道されており、実際に2020年12月に出された税制改正大綱では、見直しに向けて検討を進めるという文言が加わっています。
これは暦年贈与による節税効果が贈与税率が高い富裕層の方がより効果的であることを勘案し、より公平な税制度にしようという背景とされています。そのため、今後の税制改正で暦年贈与の手法が否定される可能性があります。
困ったことに、「相続税と贈与税の一体化」の税制改正の具体的な内容や確定的な方向性ははっきりしていません。現行の相続税では相続前3年間の贈与は相続財産に組み込まれるルールになっていますが、この3年間の年数が拡充され延長される可能性がある、あるいは相続時精算課税制度の強化となるのではないかなどと識者間では予想されています。相続前の贈与の持ち戻し期間はドイツやフランスでは10年間や15年間であり、日本税理連合会などは5年間ないし7年間を提言しています。
現行制度での生前贈与は一つの選択肢
税制改正において、一般論としては過去の贈与にまで遡って適用となると大変な混乱が生じますから、適用年度が定められその年度以降の暦年贈与から相続贈与が一体となる可能性が高いとは思われますが、絶対的な見通しは分かりません。現時点では現行制度に基づき生前贈与をしていくのが1つの選択肢になるのかと思います。
また、暦年贈与とどちらかの選択になる、累計2,500万円まで贈与が非課税になる相続時精算課税制度の検討もありますが、一度適用すると暦年贈与に戻れず、上述の通り税制度の改正が予見されるため、これを進める強い理由がない場合は相続時精算課税制度の使用を急ぐ必要はないでしょう。
暦年贈与はいつから開始するべき?
暦年贈与についての留意点の話が長くなってしまいましたが、過去の贈与にまで遡っての税制改正はないという前提で話を進めます。
(1)少しでも早く(今年から)暦年贈与を開始する。
(2)月の貯蓄40万円を繰上返済へ回し、先に住宅ローンを返済してから、暦年贈与を開始する。
のどちらがいいでしょうか。
まず(1)は、生前贈与の別記事の解説などにある注意点に問題がなければ、相続税対策という観点では、今年から行わない理由はありません。
ローンを返済する(2)は、相続財産のプラスの財産とマイナスの財産が同時に減るため、相続財産合計には影響がありません。資産1億円、ローン2,000万円とするとき、相続財産は8,000万円で、ローンを返済し資産8,000万円になるのと同額だからです。そのため、ローンが残っていること自体が好ましくないというお考えでもなければ、手持ちのキャッシュ及びキャッシュフローの状況と余裕度でどうするか考えればよいでしょう。
金融資産の運用能力があり、住宅ローンの金利以上の期待利回りで資産運用できるのであれば、住宅ローンは金利も優遇されていますので、そのまま返済していくことが合理的な判断ではあります。金利が上昇することがあれば、その時に一括返済を検討すればよいでしょう。