はじめに

複合的な受け取り時に知っておきたい3つのルール

これまでiDeCo単体を受取る場合の税金についてご説明しましたが、実際は会社の退職金もある方が少なくありません。その場合は、同じ退職所得控除が適用されるという特徴から、受け取り方により税金の計算が異なります。

以下3つのパターンを用いてご説明します。

(1)退職金とiDeCoを同じ年に受取る場合

会社の退職金とiDeCoを同じ年に受取る場合、2つの金額は合算されひとつの「退職金」として計算されます。また退職所得控除の計算では重複している期間が調整されます。

例えば、勤続38年の会社を定年退職し1,800万円の退職金を受け取り、同年10年加入したiDeCoの500万円を受取るケースを考えてみます。この場合、勤続年数38年による退職所得控除は2,060万円、加入期間10年のiDeCoの退職所得控除は400万円です。

同じ年に退職金とiDeCoを一括で受け取ると、2つの金額は合計され2,300万円となりますが、退職所得控除はiDeCoの加入期間が勤続年数と重複するので、その分は2,060万円の退職所得控除に吸収されるため、iDeCoの退職所得控除400万円は消滅します。

このような場合、iDeCoを一括受け取りにすると退職所得控除を超過してしまうので、「併用型」を使います。500万円のうち、退職金だけでは消化しきれない退職所得控除分260万円を一括で受取残り、残りの240万円を5年分割で受取ります。退職金とiDeCoを全額一括で受け取ると、所得税、住民税を合わせて18万円ほどの税金の支払いが生じますが、併用することで税金を抑えることができます。

(2)iDeCoを60歳、退職金を65歳で受取る場合

65歳定年という会社も増えてきたと思いますが、その場合はiDeCoを60歳で一括で受け取り、5年後に退職金を受け取ると、それぞれの退職所得控除が利用できるため、同じ年に両方を受け取るよりも税金を抑えることができます。これを退職所得控除の5年ルール(※)と呼びます。
※正しくは前年以前4年間という表記ですが、わかりやすく5年とします。

60歳で受け取るiDeCoは、10年の加入期間をそのまま退職所得控除として計算します。その後、65歳で退職金を受け取る際も会社の勤続年数をすべて控除の計算に用います。たとえ、iDeCoの加入期間と勤続年数が重複していても、iDeCoを先に受け取る場合、重複期間の調整はされず、それぞれの退職所得控除を使うことができます。

(3)退職金を受取った後でiDeCoを受取る場合

退職金を先に受け取り、5年空けてiDeCoを受け取る場合は、退職所得控除の重複期間は調整されます。例えば、60歳で退職金を受け取り、65歳でiDeCoを受け取る場合、60歳までの加入期間のうち退職金の勤続年数と重複する部分は吸収されてしまうのです。5年ルールはiDeCoを先に受け取る場合に有効で、iDeCoが後になる場合は20年ルール(※)が適用されます。
※正しくは前年以前19年間という表記ですが、わかりやすく20年としています。またこのルールは2022年4月に14年から19年に変更になりました。

なぜこのように異なるルールが適用されるのかというと、iDeCoは「勤務先の退職」と連動せず受け取りができるためです。受け取り時期を自由に選択できるため、税金の面で制限が掛けられています。

iDeCoの退職所得控除が退職金との重複で仮に0年となっても、退職金の受け取りとは別の年に受取ると80万円の退職所得控除が適用され、超過分の2分の1が分離課税されるので、公的年金等控除を利用するよりも税金が安くなる場合もあります。

出口に向けて戦略を練る

今回は、いくつか代表的なケースで解説をしましたが、他にも確定給付企業年金や公的年金の受け取り方によってもiDeCoの税金は変わります。また税金だけの問題ではなく、運用による資産額の増加との兼ね合いもありますので、iDeCoの出口戦略は、ぜひ事前に研究されることをオススメします。また税金の計算の際には、それぞれの源泉徴収票等が必要となりますので、なくさずに保管しておきましょう。

最後に、この記事では、単純化した計算例をご紹介しましたが、実際には税務署または専門家にご相談ください。

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