はじめに
iDeCoの受け取り方の3つの基本
それでは、実際に受け取る際におさえておきたいポイントをみていきましょう。
(1)iDeCoを一括型で受取る時は、退職金扱い
一般的に退職金というのは、長い期間勤め上げることにより、まとまったお金を受け取ることができます。慰労金という意味合いもあるので、10種類ある所得の中でも特に税金が優遇されています。退職金に対する税の優遇は勤続年数で決まり、20年までは1年あたり40万円、それ以上の期間については1年あたり70万円で控除額を計算します。例えば30年の勤続であれば、退職所得控除は1,500万円(勤続20年までの退職所得控除800万円と20年超30年までの10年にかかる退職所得控除700万円)です。
退職金が退職所得控除内に収まるなら、税金は全くかからず全額が手元に入ります。仮に退職金が2,000万円ならば、超過した500万円が課税所得となりますが、退職金は前述のように優遇されているので、さらに2分の1された上で分離課税となり、この場合だと250万円が課税所得になります。
分離課税というのは、その他の所得とは切り離して税金を計算するという意味です。例えば定年退職が誕生月という会社もあるでしょう。8月生まれであれば、それまでの期間給与収入があります。この収入と退職金を合算してしまうと、税率が高くなってしまうので、他にどんな所得があろうとも退職金は切り離して税金を計算するのです。このケースのように課税所得250万円に対する所得税は152,500円、住民税は25万円となります。(わかりやすいように簡易計算しています)
では、iDeCoの場合の「退職金扱い」とは、具体的にどういうことなのでしょうか? iDeCoは、加入期間を勤続年数と読み替えて退職所得控除を計算します。たとえ、転職を何度繰り返そうとも、企業型DCからiDeCoに資産を移換しようとも、その加入期間は通算されます。
現代社会においては、おなじ会社にずっと勤めるというケースはまれでしょう。すると転職の度に勤続年数がリセットされ、なかなか大きな退職所得控除が受けられないという問題があります。しかし、iDeCoはまさに自分でつくる退職金、早く始めることで加入期間を延ばし大きな退職所得控除を得ることができます。ただし、運用指図者期間は加入期間とは認められないので、経済的な理由などで掛金の拠出が難しい時でも、積立を中断するのではなく掛金を減額させて、積立を継続した方が受け取り時には有利になるのです。
いわゆる専業主婦(第3号被保険者)は掛金を拠出しても控除できる所得がないため、iDeCoに加入するメリットがないと敬遠されることもありますが、仮に月23,000円で30年間、3%で運用できれば、約1,330万円もの資金を非課税で受け取れます。筆者の身近には、奥様に贈る退職金として奥様名義のiDeCoにご主人が掛金拠出をしている方もいらっしゃいます。ご主人に税制メリットはありませんが、奥様への感謝の印として渡したいとおっしゃっています。
(2)iDeCoを分割型で受け取ると公的年金扱い
国民年金と厚生年金から支給される老齢基礎年金と老齢厚生年金は受け取る際、所得税の対象となりますが、そこには「公的年金等控除」という税金のかからない枠が設定されます。65歳未満と以上、またはその他の所得に応じても異なるのですが、一般の収入よりも税金がかかりにくくなるよう配慮されています。
この公的年金等控除がiDeCoを分割で受取る際に利用できます。
例えば、公的年金受取りまでの「つなぎ年金」としてiDeCo300万円を5年間、分割型で受け取るケースを考えてみましょう。合計所得が1,000万円以下の場合、iDeCoの受け取りが年間60万円までは非課税です。60万円以上の場合は、所定の計算式にのっとり課税されます。公的年金を65歳から受取る場合、65歳未満の控除枠は未使用ですから、このような受け取り方は有効です。
分割型で受け取る際は、定期預金や保険商品に資金をすべて切り替えて定額でお金を受け取ることもできますし、運用を継続しながら資金を受け取ることもできます。例えば10年で受け取る場合、投資信託の残高のうち10分の1を解約、翌年は9分の1を解約といった形で取り崩します。こうすると、残りのお金は引き続き非課税で運用ができるので、資産寿命を延ばすことが期待できます。
(3)iDeCoの併用型は2つの控除が適用
併用型の場合、一括部分は退職所得控除が、分割部分は公的年金等控除が適用になります。退職所得控除以上にiDeCoの資金がある場合に併用型を選ぶことがあります。
例えば、加入期間19年だと退職所得控除は760万円です。一方iDeCoの資金が1,060万円あるような場合は、760万円を一括で受け取り、残り300万円を5年間の分割で受け取ります。すると一括部分は退職所得控除内ですから非課税、300万円を5年で分割すると1年あたり60万円となり、前述の通り65歳未満であれば非課税です。