はじめに
為替介入の効果を見極めるコツ
日本の通貨当局は、2022年9月から2011年以来10年以上ぶりに為替市場への介入に出動しました。円安を阻止するために、日本政府が為替市場で米ドル売り・円買い取引を行ったということです。財務省が公表したところによると、9月は2兆8千億円、そして10月は6兆3千億円もの巨額の米ドル売り・円買い取引が行われたとのことでした。
ただ、こういった為替介入には、否定的な意見も目立っています。その代表的なものは、日銀が金融緩和を続ける中での円買い介入の効果は限られるので無意味ではないか、というものでしょう。一般的に、金融緩和は金利低下を通じ円安をもたらす可能性があります。それに対して為替市場で円買い介入を行っても、円安を止めるのは難しいだろうという考え方です。
このような考え方自体は「間違い」ではないでしょう。ただし、既に見てきたように、足元の状況は日銀の金融緩和で円の金利が低下したことによる円安ではなく、米国の利上げにより、米金利が上昇したことに連れた米ドル高、その裏返しの円安ということが考えられます。
そうであれば、日銀が金融緩和を続ける中でも、米国の金融政策を受けて米金利が低下する局面では米ドルが下落する可能性があるので、日本の米ドル売り・円買い介入も円安が止まり、円高に向かうきっかけになる可能性はあるでしょう。
図表4は、9月以降の米ドル/円のチャートに、米ドル売り・円買い介入が行われたとの観測が浮上したタイミングを重ねたものです。最初に介入が行われたのは9月22日(木)で、この日の米ドル/円は146円手前から140円割れ近くまで急落しました。しかし、すぐに米ドル高・円安が再燃すると、約半月後には介入したと見られた水準を超えて一段と米ドル高・円安が広がるところとなりました。そしてその後は、介入観測が浮上しても、ほとんど米ドルは下がらず、一気に150円の大台も突破となったのです。
これに対して、10月21日(金)、日本の通貨当局は改めて米ドル売り・円買い介入に動いたと見られました。すると今度は米ドルも久しぶりに大きく下落。そして翌営業日以降も米ドルは続落に向かったのです。
では、10月21日(金)とそれ以前は何が違ったのでしょうか?
10月21日(金)、一部の報道をきっかけに、米利上げ見通しが下方修正される動きが広がり、米金利も低下に向かいました。すると、米金利に連れる傾向のある米ドルも下落に向かったということです。日銀の金融緩和は何も変わらない中でも、米金利が低下すると米ドルはそれに連れて下落しやすいため、米ドル売り介入で米ドル高・円安も止まり、米ドル安・円高に向かったということでしょう。
米ドル/円などの為替相場は、基本的には金利差と連動しますが、局面によって影響力は微妙に変わります。例えば、既に見たように2013~2015年のアベノミクス全盛期は、米ドル/円は日本の金利の影響が大きかったのに対し、最近の場合は米金利の影響が大きくなっているわけです。
なぜこのようになるか。私の考えでは、その時のマーケットの注目が集まりやすいテーマが影響するため、アベノミクスなら日銀の金融政策に大きく反応し、足元では約40年ぶりの米国のインフレ対策である米金融政策に過敏な反応となっているということではないかと思います。いずれにしても、何が相場の主たる変動要因なのかを見極めることは、予想を「間違う」ことを回避する大事なコツだと思います。