はじめに
為替相場は循環するという「真理」
専門家の間でも、つい最近まで「この円安は、日本の経済構造を反映した結果であり、そんな経済構造を変えなければ、150円の円安も通過点に過ぎない」といった指摘が目立ち始めていましたが、そんな指摘についても改めて吟味する必要が出てきたでしょう。
「歴史的な円安でも1ドル200円にはならない理由」というタイトルで書いた前々回の記事において、米ドル/円は循環するものであり、その意味では既に今回の円安もいつ終わってもおかしくない段階に入っているとの見方を示しました。
米ドル/円が循環するというのは、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)かい離率で見ると分かりやすく、1980年以降で見ても、5年MAプラスマイナス30%の範囲でおおむね上下動してきました(図表4参照)。これで見ると、米ドル高・円安もいつ終わってもおかしくない段階を迎えていたわけです。それが、今回の米CPI発表をきっかけに、ついに円安から円高への転換となったのか、そういった観点での注目になるのではないでしょうか。
為替相場は循環するもの−-それは為替相場を見る上でとても重要な「真理」の一つではないかと私は考えています。というのも、少なくともこれまでは、循環的な限界に達すると、むしろ「新時代の始まり」として、まだまだ円安(円高)がありうるとの見方がほとんど一般化しながらも、結果的には外れるということを繰り返してきた印象が強いからです。
とくに株式相場の個別銘柄などとは異なり、主要な為替相場が循環するのは、相場が過度に振れると、逆方向に戻ろうとする反作用が高まることが主因と考えられました。具体的には、円安が広がるほどに、基本的には輸出やインバウンドが増えて、それに伴う円買いの増加により円安は止まり、円高に反転することになるでしょう。
ところが、この点が今回の場合は、いわゆる「コロナ禍」でのエネルギー価格の急騰、それは原材料の輸入依存の高い日本にとってはむしろ輸入額の増加要因となったでしょう。それどころか、コロナ禍による行動制限は、円安とインバウンドの関係を遮断するところとなりました。以上のような「コロナ禍」要因も、米ドル/円の循環要因に支障を来すことになった可能性はあるでしょう。
ただし、原油価格などエネルギー価格は下落に転じ、そしてインバウンドも再開しました。そういった中で循環的に円買いがいよいよ拡大し、円安を止めて円高へ転換するといった水面下での変化が起こっている可能性も注目されるところでしょう。