はじめに

さまざまな病気の原因につながる可能性がある炎症ですが、その予防や改善のためにはどんなことに気をつければいいのでしょうか?

日本病巣疾患研究会副理事長で医師の今井 一彰( @imakazu )氏の著書『名医が教える 炎症ゼロ習慣 ~体内年齢が10倍若返る~』(飛鳥新社)より、一部を抜粋・編集して運動や睡眠と炎症について解説します。


運動は最高の「抗炎症薬」

運動は薬です。脂肪を燃焼して、筋肉をつけるだけではありません。運動は、さまざまな病気の予防・改善にも役立ちます。なぜこのような効果があるのでしょうか。その理由のひとつに、運動の「抗炎症効果」があります。

慢性炎症と関係している病気にがんがありますが、 運動によってがんの発症リスクが抑えられる ことがわかっています。国立がん研究センターの研究が、がんに関する国内の疫学研究結果を集めて、がんに対する効果について科学的な検証をした結果、運動には大腸がんや乳がんの発症リスクを低くする効果があることが示されています。また、身体活動量が多いほど、がん全体の発症リスクが低くなるという結果も出ているのです。

運動にはこのほか、糖尿病などの生活習慣病や、うつ病などの心の不調を改善する効果もあります。 こういった運動の効果には、運動が持つ「炎症を抑えるはたらき」が関係している と考えられています。というのも、適度な運動をすると筋肉からは若返りホルモンとも言われる「マイオカイン」という物質が出ることがわかったのですが、この物質には炎症を抑える作用があるからです。

マイオカインは筋肉が出す物質の総称で、その種類は300以上あります。そのひとつが「インターロイキン6(IL–6)」という物質。

実は、このインターロイキン6は免疫を異常に活性化させて炎症を引き起こす作用もあるのですが、適度な運動によって筋肉から放出されると、免疫の過剰な反応を抑えて慢性炎症を改善する効果があることが発見されたのです。驚くべきことに同じ物質が、炎症促進と炎症抑制という、相反する効果を持っているというわけ。

マイオカインについては、世界中でさまざまな研究が行われ、がんやうつ病のリスクを減らすだけでなく、記憶力を高める作用などが報告されています。

「座りすぎ」が寿命を縮める

日本人は「世界でいちばん、○○している時間が長い」というデータがあるのですが、「○○」には何が入るかわかりますか?

実はなんと、「世界一、座っている時間が長い」でした。世界20か国で、平日の座っている時間を調べたところ、日本はサウジアラビアと並んで「1日7時間」。

長時間座っている「座りすぎ」は、寿命を短くするのです。

オーストラリアの成人男女約22万2000人が参加した研究によると、平日1日に座っている時間が4時間未満の人に比べて、8~11時間座っている人は死亡リスクが15%増え、11時間以上になると40%増えるという結果が出ています。それも、これは運動習慣のあるなしにかかわらない結果で、運動をしても、座る時間が長いと寿命が縮まるリスクがあるということです。

京都府立医科大学の6万人を超える日本人を7.7年追跡したデータを用いた研究でも、生活習慣病の有無にかかわらず、日中、座っている時間が2時間増えるごとに死亡リスクは15%増えるという結果に。さらに余暇の身体活動量を増やしても座りすぎのリスクを完全に抑制できないという結果が出ています。

なぜ、座りすぎで死亡リスクが高くなるのかというと、体の70%の筋肉がある足を動かさないことで、血流や代謝機能が低下することが影響しているのではと考えられています。また、筋肉を動かさなければマイオカインの量も抑えられるので、慢性炎症も起こりやすくなります。

健康に長生きしたいなら、少しでも座る時間を短くして、体を動かす時間を増やしましょう。

30分座ったら3~5分歩いたり、ストレッチをしたりして、体を動かすよう心がけて。通勤電車を使っていてなかなか座れない方も、「座れなくてラッキー」という視点をもつとよいかもしれませんね。また、最近は、立ったままデスクワークができるスタンディングデスクが流行しているように、可能なら、立ってできる仕事は立って行うようにしても効果があるでしょう。

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