はじめに

黒田総裁退任は為替相場に影響するのか?

これに対して、「いやいや、日本の金利上昇は、まだまだ始まったばかりで、それこそこれまで金融緩和を主導してきた黒田総裁が退任すると、金利は一段の上昇に向かうだろうから、為替相場も円高がさらに広がるだろう」といった反論はあるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?

図表2は、日米の10年債利回りについて、目盛りは左右軸に分けて値動きを重ねて見たものです。これを見ると、水準は違うものの、日米10年債利回りの値動きは、2022年春にかけてほぼ重なっていたことが分かるでしょう。

日米10年債利回りの連動、それは日本の10年債利回りに米国の10年債利回りが連れるというより、基本的には「世界一の経済大国」である米国の10年債利回りに日本の10年債利回りが連動することが多かったと考えられます。これについて、別な言い方をすると、日本の10年債利回りは米国の10年債利回りによって決まってきたということです。

それを変えたのが、日銀によるYCC、長期金利上昇抑制策でした。日本の10年債利回りの上限を0.25%に設定し、それ以上の金利上昇を容認しない政策をとったことから、米金利の上昇にも日本の金利は追随せず、両者のかい離が拡大するところとなりました。

今回、日銀が10年債利回りの許容上限を拡大したことで、日本の10年債利回りはかつてのように米国の10年債利回りと連動する状況に戻り始めた可能性があるでしょう。その上で、さらに日銀がYCCといった長期金利上昇抑制策を終了したら、普通ならYCC導入以前のように、日本の金利は「世界一の経済大国」米国の金利で決まる構図に戻るのではないでしょうか。

つまり、黒田緩和を転換し、YCCを止めても、日本の金利が青天井に上昇するわけではなく、米金利の変動の範囲内の上昇にとどまる可能性が高いのではないか−−と筆者は考えます。

円金利上昇が円売りに変わる日

かつて「史上最高のFRB(米連邦準備制度理事会)議長」とも呼ばれたA・グリーンスパン氏は、「長期金利は基本的にコントロールできない」と発言したことがありました。中央銀行は政策金利を変更することで、短期金利には絶対的な影響力がありますが、長期金利への影響力には限界があるといった意味になるでしょう。

日銀によるYCC、長期金利上昇抑制策は、「コントロールできない長期金利」をコントロールしようとした、という意味では常識外れの政策だったかもしれません。10年債利回りの上限を0.25%にしたことで、日銀は0.25%以上の利回り上昇(価格下落)を回避するべく、10年債利回りの購入を拡大しました。その結果、日銀は大量に国債を保有するところとなったわけです。

そんな国債利回りの上昇は、国債価格の下落となります。この利回り上昇に伴う国債価格の下落は、日銀の国債保有にどのように影響するかについて、2022年12月に日銀幹部は、利回りが1%上昇すると、日銀の保有国債の含み損は30兆円弱に急増するとの試算を説明しました。

日本の中央銀行である日銀は「円の番人」と言っても良いでしょう。そんな「円の番人」が、金利上昇に伴う保有国債の含み損拡大で債務超過に転落するなら、果たしてそんな円金利上昇は円買い材料とみなされるのか、ちょっと疑問ではないでしょうか。

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