はじめに
ミドルエイジが陥る「キャリアプラトー」とは
もしあなたが「将来に向けて、このままのキャリアでいいのだろうか?」と悩んでいるのだとしたら、それはすでに、あなたの目が未来に向いている証拠です。
過去を誇るのでも後悔するのでもなく、未来を構想する。これこそが、本当の意味でのキャリア創りのスタートです。
「キャリアは過去の仕事の履歴ではなく、生き方のプロセスそのものだ」
こう考えれば、キャリアは年齢に縛られるという誤解も、おのずと解けていきます。
私のところに相談に来る人には、
「何かを変えないといけないと思うのだけど、どうしていいかわからない」
「そろそろ年齢的にどうにかしないといけない気がする」
「これからどうするのかを決めるギリギリの時期だと思う」
といった悩み、あるいは不安を抱えるミドルエイジ(30代後半から50代前半)が多くいらっしゃいます。
限られた時間に対する焦りと、これまで自分が築いてきたキャリアに対する不安。そんなものが、ある年代に差し掛かると、ふいに胸によぎるのです。
でも、心配することはありません。そう 思い悩むことはとても自然なことで、むしろ素晴らしいチャンス が訪れたと考えてみましょう。
「キャリア・プラトー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
組織内で昇進・昇格の可能性が狭まり、あるいは狭まってしまったと本人が感じることで、モチベーションの低下や能力開発機会の喪失に陥ることをいいます。「プラトー(Plateau)」は「高原」または「台地」の意味で、ここではキャリアの発達がある程度の高みに達して、伸びしろのない停滞期にあることを表現しています。それ以上は昇ることのできない平坦な台地、キャリアの踊り場というイメージでしょう。ミドルエイジがよく陥るのが、まさにこのキャリア・プラトーです。
私も、40代の前に陥りました。仕事を覚えてまわりが見えてきたころ、今の立ち位置では自身の成長イメージが持てないと感じることは、ミドル世代の多くの人が経験することではないでしょうか。
一般的に、職業キャリアをスタートさせるのは10代後半から20代の初めです。定年退職を迎えるのが仮に65歳だとすると、およそ40〜50年ほど仕事をする年月があります。定年のない仕事もありますし、退職してからも働く人もいるので、その場合はさらに長くなります。
かつて、日本経済が右肩上がりで成長していた時代には、一般的な会社員は終身雇用制度に守られて、一生涯を会社のために捧げることで将来を保障してもらっていました。目の前の仕事をがむしゃらにがんばることが、将来の安定につながっていたわけです。
ところが、「バブル崩壊」とその後に訪れた「失われた20年」によって、状況は大きく変わってしまいました。
20〜60代の社会人男女500人を対象にした転職事情に関するアンケートでは、転職した経験のある人が56・6%となり、半数を超える割合となっています。つまり、2人に1人は転職を経験しているわけですね。
40代の私も、大学時代の同級生の3分の2が転職、3分の1が新卒で入った会社に勤務しているので、感覚的には納得です。転職を経験していない人たちにとっても、周囲の仲間たちが転職していくのを何度も目にしている状況にあるわけです。
若いころはがむしゃらに働き、覚えることばかりで成長の実感があります。ところが、ある程度の経験を積むと自己成長を感じる機会が減るとともに、自分の伸びしろや、組織内でのポジション、昇進の可能性もある程度見えてしまいます。
そんななかで、なお意欲的に働く同期や、転職や独立に果敢にチャレンジしていく同僚の姿を見て、「自分はこれでいいのか」「やりたいことを探さないといけないのでは」と悩んでしまう。これが典型的なキャリア・プラトーです。
いままさにそんな状態に陥っている人はもちろん、若い時期でも夢中で働いていたらいつの間にか踊り場に出ていることも、逆に高齢の人がずっとモヤモヤを抱えたまま働き続けていることもあります。
これから日本は少子高齢化が進み、世界に先駆けて超高齢化社会になっていきます。
労働人口が減って社会を維持していくために増税されたり、社会保障に関する費用が増額されたりする可能性が高いとの予測もあります。
さらに、コロナ禍を受けて、ビジネスの環境が大きく動き出しています。DX(デジタル・トランスフォーメーション)が一気に加速し、AIやロボット技術の普及も進んでいくと思われます。時代の流れに対して自分自身を適応させていくことができるのか、ビジネスパーソンの不安はさらに増していくことも考えられます。