はじめに

下請法とフリーランス保護新法

今回の法案内容は、当然の事項のように感じるフリーランスの方もいるかもしれません。下請法などの存在から、発注事業者がすでに遵守している事項ばかりだからです。

しかし、下請法が適用されるには、発注側企業の資本金が1,000万円超であることなどが必要で、すべてのフリーランスの保護に十分な法律とは言えませんでした。

フリーランス保護新法では、発注事業者側が個人であっても適用されるため範囲が大きく広がりました。本案の一部は、フリーランス同士の取引についても適用されます。

なお発注業者に違反があった場合、国は立入検査や勧告、命令などができます。さらに命令違反や検査拒否があれば50万円以下の罰金が課されます。実際に罰金が課されるのはレアなケースになるかもしれませんが、罰則があることで違反の抑止力になるでしょう。

背景にはフリーランスの増加

法案の背景には働き方の多様化などによるフリーランスの増加が挙げられます。フリーランス人口は462万人と試算されています(2020年、内閣官房)。必然的にトラブルも増えます。
発注事業者のほとんどはフリーランスに配慮しながら取引をしていますが、その特性上トラブルになりやすいこともまた事実です。

内閣官房が行なった「フリーランス実態調査結果」によると、業務委託を受けて仕事をするフリーランスの37.7%がトラブルを経験しています。そのうち、具体的には以下のような事例です。

・発注の時点で、報酬や業務の内容などが明示されなかった:37.0%
・報酬の支払が遅れた・期日に支払われなかった:28.8%
・報酬の未払いや一方的な減額があった:26.3%
※複数回答可

トラブル経験者のうち、およそ4割の方が報酬や業務内容などが明示されないという結果になりました。フリーランスは立場上、問題が起きても自身で飲み込んでしまいがちです。取引先をほぼ1社に頼っていることも多く仕事を失えば死活問題になるからです。フリーランス保護新法により、こうしたトラブルの未然防止が期待できます。

インボイスとフリーランス新法の関係

2023年10月からはインボイス制度との関係も確認しておきましょう。

1人で仕事をするフリーランスは売上が1,000万円に及ばず、消費税の免税事業者が多く存在します。消費税の免税事業者で適格請求書発行事業者の登録申請をしない場合は、インボイスを発行できません。企業はフリーランスに支払う報酬を仕入税額控除にできず、消費税の負担が増えてしまいます(簡易課税の場合を除く)。

企業の税負担が増えると、フリーランスに対し報酬を下げる、契約を切る、課税事業者になるよう迫るなどの、不当な扱いが想定されます。実際にこのような悪事を働く発注事業者はごく一部だと思いますが、フリーランス保護新法が成立すれば、こうした事態を回避できるかもしれません。

フリーランスはトラブルにどう対応するのか

フリーランスが仕事上で問題を抱えた場合、「フリーランス・トラブル110番」に相談できます。フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省から委託を受けた第二東京弁護士会が運営している機関です。

相談料は無料、匿名での相談が可能で、メールや電話、必要な時は対面での相談が可能です。和解あっせん手続きも無料です。弁護士がワンストップでサポートしてくれます。

いざという時に相談先があることは、1人で働くフリーランスにとって大きな安心材料です。法案では「相談対応などの必要な体制の整備等の措置を講ずるものとする」とされていますので、サポート体制は今まで以上に充実するものと思われます。

発注事業者はもちろんですが、保護される側のフリーランスも法案を理解し、自分自身で働きやすい環境を整えていく意識が必要でしょう。

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