はじめに
WBCでの侍たちの活躍に日本中が歓喜した記憶は新しいですが、スポーツに限らずたくさんの日本人が海外で活躍しています。今回は日本を離れ、海外で活躍する方たちにお勧めしたい国の制度と、注意点をご紹介します。
国民年金の任意加入
吉川さん(仮名)は、フルート奏者としてこれからの活躍が期待される25歳の女性です。音楽大学を素晴らしい成績で卒業し、今後は活動拠点をヨーロッパに移し、音楽の道を究めようとされています。
親御さんは、娘さんの未来を祝福しつつも、慣れない海外生活の不安と、見通しの立たない将来設計に不安を抱えていらっしゃいます。そのため、日本でできることはしっかりした上で、送り出したいとお母様が吉川さんと一緒に、ファイナンシャルプランナーの筆者のもとにお越しになりました。
まず筆者は、国民年金の任意加入についてお話しました。日本人であっても日本を離れると、国民年金の強制加入被保険者ではなくなります。従って、保険料の支払が不要になるのですが、あえて日本の年金制度に「任意加入」することが可能です。それにより、引き続き年金給付を受けられるメリットが継続します。
老齢年金を受給するためには、年金加入期間が10年必要ですが、任意加入することにより加入期間を確保し、かつ将来の年金額を満額に近づけることができます。老齢基礎年金の満額は現行80万円程度ですが、物価上昇の折には追随して変動しますし、なにより終身保障です。
あわせて月400円の付加保険料を納めると、老齢年金に上乗せで付加年金が給付されます。老齢基礎年金同様、付加年金も繰り下げが可能です。やはり長生きに備えた保険として、日本の年金制度は価値があると考えます。たとえ日本に住んでいなくても、日本からの年金を受給することができます。
年金に任意加入することで、万が一の際には障害年金も受給できます。障害1級であれば約100万円、障害2級であれば約80万円の年金が終身で保障されます。また亡くなった場合は、該当する家族が遺族年金を受給することもできます。
任意加入の保険料は、被保険者本人の銀行口座から引き落としされます。また手続きの際は、親御さんなどを代理人として立てておくことが一般的です。住所も代理人のところを登録しておきます。なお銀行によっては、海外居住者が口座を保有することを認めていないところもあるため、事前の確認が必要です。
iDeCoあるいは国民年金基金への加入
任意加入により国民年金の被保険者となると、iDeCoも国民年金基金も加入が可能になります。iDeCoも国民年金基金も単独加入の場合、それぞれ月68,000円が掛金上限額です。ただし前述の付加保険料を支払う場合、iDeCo単独であれば掛金上限が67,000円となります。これは付加保険料が月400円であることと、iDeCoの掛金は1,000円単位での設定であることが理由です。
国民年金基金に単体で加入する場合、付加年金への加入はできません。これは国民年金基金の年金給付には付加年金分も含まれているからです。
国民年金基金は、あらかじめ将来の受取額が決まっています。例えば吉川さんが月65,000円ほどの保険料を60歳まで払い込むと、65歳から160万円ほどの年金を終身で受け取れるという試算となりました。老齢基礎年金と合わせると、240万円ほどの年金額を確保できそうだと分かります。
国民年金基金には保証期間付き終身年金であるA型、保証期間がない終身年金のB型、他にもI型、II型、III型、IV型、V型とそれぞれ期間の異なる確定年金などから自分の希望にあうタイプの年金を選ぶことができます。また生年月日及び性別、保険料などから何口加入するのかを指定し試算をすると、将来の年金額の見込みを得ることができます。
一方iDeCoの場合、運用成果に応じて将来の受給額が変動します。国民年金基金のように終身年金で受け取ることはできませんが、それでも十分な資産を運用により創ることが期待できます。例えば先ほどと同様、月65,000円を34年間3%で運用しながら積み立てると、60歳時点での資産額は4,600万円です。5%運用なら7,000万円に近づきます。
どちらが良いかは、その方の考え方によるかも知れませんが、場合によっては国民年金基金とiDeCoを併用することも可能です。終身保障の年金を確保しつつ、経済成長の恩恵を受けながら大きな資産を創ることを目指し、両方の制度を利用するのも選択肢です。その場合、月の掛金上限は両方の合算で68,000円です。
この掛金は、国民年金の保険料同様ご自身の銀行口座から引き落としされます。従って前述同様、非居住者でも利用可能な金融機関で口座を準備する必要があります。