はじめに

求められる両睨みの経済政策

前述のように日本では歴史的なインフレ率を記録しています。一方、米国では利下げサイクルに突入する可能性が出てきました。仮に日銀が植田新体制の下で金融緩和を解除して、金融政策を引き締め方向に転換するタイミングで、米国が利下げサイクルに突入してしまうと、日米金利差が縮小し、ドル円相場は円高方向に動くでしょう。円高に振れると海外から輸入するエネルギーや食品価格は円建てで安くなります。また、米国が利下げサイクルに突入するということは、インフレ環境がある程度は落ち着いたことを意味します。

世界のインフレ率が上昇するタイミングに遅れる形で日本国内でもインフレ率が上昇しました。これは日本人の多くにデフレマインドが染み付いているため、企業の価格転嫁のタイミングが遅れたことが理由と考えます。ということは、世界のインフレ率の伸びが鈍化して、インフレが落ち着くと、日本は少し時間をおいて同様にインフレ圧力が下がることになります。

こうなると、拙速な金融引き締めは「物価目標の持続的・安定的実現」を達成させることなく、再びデフレ経済に突入させる決定打になりかねないのです。日銀は国内のインフレ状況、賃金動向など幅広いマクロ指標を確認しつつも、同時に米国をはじめとする海外のマクロ環境と金融政策を両睨みしながら政策決定をすることが求められています。

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